香港の高級ホテルから大クレーム
「こんなひどいカキは初めてだ」

 まずは、香港へ冷凍のカキむき身を輸出。販売は順調に進み、売り上げをのばした。

 しかし問題があった。

「販売は一部のマーケットに限られていたんです」(鈴木さん)

 冷凍のカキを購入してくれるのはスーパーなどの「ミドルマーケット」まで。4つ星、5つ星の高級ホテルやレストランといった「ハイクラスマーケット」ではまるで相手にされなかったのだ。

「香港の高級ホテルのレストランでは、必ずステイタスとしてカキが提供されています。けれどそれは、必ず生。そして殻つきです。冷凍のむき身では門前払い。使われていたのは欧米から空輸されたカキでした」

 鮮度が問われるカキ。欧米から香港へは輸入に約15時間かかるが、広島からなら、たった4、5時間だ。鈴木さんは「一度使ってみてください」と売り込み、高級レストランの商談を取り付け、広島から生食用殻つきカキを送った。

 ところが結果は「大クレームでした」。

 香港の担当者は言った。

「こんなひどいカキを見たのは初めてだ」

「なんでおたくのカキは、殻のかたちがこんなにいびつなんだ。そして身がよく太っているものもあればダメなものとバラつきが多いんだ。欧米ではそんなことはない」

 ハイクラスなマーケットでは、殻つきで提供するからには、殻のかたちもそれなりにきれいでなくてはならない。そして身入りがある程度一定していることが重要だったのだ。

アメリカやオーストラリアなど世界各地の養殖方法も勉強し研鑽を重ねた結果、現在はオーストラリア製の養殖かごを使用して育てる

 欧米はそれを前提としてシングルシード方式でカキの養殖を行っているが、おおむね、むき身が前提という広島の筏を使った養殖方法では、カキが高密度で育つため、殻のかたちも身入りもバラつく。

「エンドユーザーの違いによって、養殖方法が違うとは知りませんでした。当時、広島では、むき身のカキを上手に作れる人はたくさんいましたが、殻つきカキを育てている人があまりいなかったんです」

 世界で通用するカキを作るには自分で養殖をするしかないと決意した鈴木さんのチャレンジが始まった。

 養殖に最適な土地を見つけるべく広島県内を捜し歩き、白羽の矢を立てたのが海水の透明度が高い、大崎上島。しかし、目を付けたのは海ではなかった。江戸時代より塩づくりが盛んだったこの島の「塩田跡の池」だった。