生産量日本一ゆえのジレンマ
ブランド力が弱かった広島のカキ

殻が小さいけれど身入りがよく、濃い味わいの広島のカキ

 牡蠣(カキ)生産量日本一を誇る広島県。その数は全国総生産量の60%と、国内のカキの過半数を供給する。

「栄養豊かで波が穏やかな瀬戸内海で育った広島のカキは、殻が小ぶりですが身入りが多くプリッとした食感、濃厚な味わいが特徴です」と広島県水産課の前田克明さん。

 広島のカキ養殖は室町時代の終わりには始まっていたといわれ、戦後、筏を使った垂下式の養殖方法を導入したことで、生産量を飛躍的に伸ばし、現在、その数は年間約2万トンだ。量が多いため、いろいろなニーズに対応できる。

 ところが、近年それがゆえに広島のカキが抱える問題点があった。

「質より量のイメージが強かったんです…」(前田さん)

「カキといえば、広島」という圧倒的な知名度に比べて、品質に対する市場の評価が決して高いとはいえなかったのだ。

 広島のカキは生鮮から冷凍食品の加工用原料まで幅広い用途で出荷されているぶん「特色が希薄」。「広島のカキ」というインパクトに欠けていたため、他産地に比べてブランド力が弱く、「美味しさ」の魅力が伝わっていなかった。

 ブランドイメージがアップしなかった原因のひとつに「生食用カキ」が弱かったことが挙げられる。広島のカキはもともと、むき身の加熱用が主体で、冷凍加工カキのシェアが大きく、加熱調理のイメージが強い。

 近年首都圏中心に増加しているオイスターバーといったカキ専門店で主に見かけるのは北海道、東北や、フランス、アメリカなど海外のカキ。広島産の取り扱いは少ないというのが現状だった。他産地が生食用殻つきカキで売り上げを伸ばしているなか、広島は立ち遅れていたのだ。

 安価な外国産カキの輸入増大など産地間競争が進み価格が低迷するなか、消費者が望む高品質な「生食用殻つきカキ」の重要は伸びる傾向がある。市場でも、殻つきは2~3倍の価格となり利益率も高い。

 県として多様化、高度化する消費者のニーズにこたえるべく、高品質のカキの生産、ブランド力向上の取り組みが必要だった。その起爆剤としてなんとしても必要だったのは高品質で安全な「生食用殻つきカキ」の増産だった。