日雇い労働者需要は減っている
なぜ西成は“活況”なのか

西成「あいりん福祉労働センター」周辺の様子。路上生活者達の“根城”が並ぶ Photo by Kenichiro Akiyama

 いったい、西成と山谷のこの景況感の差は何なのだろうか。

 実のところ、労働者たちの“食い扶持”となる公共事業の数が増えているわけではない。国の公共事業関係費は、1998年の14.9兆円をピークに右肩下がりで、2014年には約6兆円にまで落ち込んだ(出所:国土交通省「公共事業関係費(政府全体)の推移」)。アベノミクスで活況のような印象もあるが、実際は事業の数はめっきり減っている。

 国土交通省、厚生労働省、大阪市など行政、日雇い労働者やホームレス支援に携わってきた関係者らは、「とても日雇い労働者の雇用が好調とは思えない」と口を揃える。地元NPO関係者は次のように語る。

「2008年のリーマンショック以降、西成の日雇い労働者需要は減少傾向にある。大阪市が行っている“特掃”と呼ばれる日給5700円の清掃作業の仕事ですらありつくのも大変だ。日雇い労働者需要を見る限り、今が活況期という認識はない」

 にもかかわらず、なぜ西成の労働者たちは「景気がいい」と考えるのか。

 大きな理由として、“賃金の水準”がありそうだ。長年、大阪市で生活保護行政に携わってきた課長代理は言う。「1990年代後半、西成では手に職のない雑工や土工と呼ばれる労働者の賃金は日給1万3000円くらいだった。だが今では朝から晩まで働いても7000円もあればいいほう。一般的な相場は5000円、安価なところだと4000円という話も聞く。最低賃金法違反の安価な賃金の仕事だが、その数は増えている。それを労働者は“活況”と錯覚しているのだろう」。

 つまり、全体としては減っているが、西成では“安い仕事”は増えているのだ。

 この大阪市課長代理は、西成・あいりん地区における労働者心理として、「賃金そのものの多寡を問わない傾向にある」とする。「西成にいる労働者たちは束縛されることを極度に嫌う。安価でもその日のうちに賃金を貰い、根城に戻れればそれでよしとするところがある。彼らが重視するのは賃金の良し悪しよりもアゴ足*2がついているかどうか。これに尽きる」。

 実際、西成・あいりん地区のメインストリーム、「萩之茶屋南公園(通称・三角公園)」を根城にするホームレスで日雇い労働者の一人(63歳)はこう語る。

「安うても仕事が増えると行政の奴らから働け言われてかなわんねん。わしらにとっては景気なんて関係ないよ。今日の飯代と酒代が稼げたらそれでええんや」

 一方、東京・山谷では全く事情が異なる。

*2:アゴはかみ砕くの意味から食事、足は交通を意味する。それぞれの費用を企業や雇い主側が賄うことを指す。