日本では、新品時だけ価格が異常に高く、中古になると値段が大きく下がる。
だが、それを使うときの価値は新品とさほど変わらない。この中古価格と使用価値との歪みに着目すれば、誰でもお金持ちになれるというのが『ベンツは20万円で買え!』の内容だ。「新品神話」を抱く日本人に多くのヒントを与えるエッセイの一部を紹介しよう。
イヤガラセを受けないためにも
安い中古の高級車に乗ろう!
メルセデスで街を走ると、人々は優しく接してくれる。右折や車線変更がスムーズだ。ウインカーを出すと、周りのクルマが気を遣って、勝手に道を譲ってくれるのだ。軽く手を挙げ、お辞儀をして合流する。
ところが、朽ち果てたボロボロの軽自動車に乗っていると、マジメに運転していても、いわれのない差別やイヤガラセを受ける。
例えば車線変更のとき、3秒前にウインカーを出しても、右斜め後方のクルマが加速して、わざと入れてくれない。あるいは、NAの非力な軽自動車でアクセルを全開にして、頑張って加速してもスピードが上がらず、後続のクルマがパッシングをしながら煽ってくる。
この類いのイヤガラセをしてくる人は、なぜか、マジメくさったつとめ人が多い。仕事のストレスが溜まっているのだろうか。家庭ではよき父、よき夫であるかと思うと残念でならない。
しかし、メルセデスに乗ってガソリンスタンドに行けば、若い店員が全速力で駆け寄ってくる。羨望のまなざしでメルセデスを見つめる顔なじみの店員に、ちょっと質問してみた。
「このクルマ、いくらだと思う? 中古車だけど」
「200万円か300万円くらいですか?」
「惜しい! もう少し安く買っている。50万円」
恥じらいながら店員の耳元で囁き、耳たぶにそっと息を吹きかける。
想像していた価格とのギャップに、若い店員は目が点になって、のけぞっていた。たぶん中古車とはいえ、メルセデス・ベンツがそんな値段で買えるとは思っていなかったようだ。
毎日、たくさんのクルマを見ている彼らでさえも、いったい、いくらなのかわからない。中古車の値段なんて、そんなものなのかもしれない。