着実に増え続ける日本企業のミャンマー進出
昔ながらのビルが点在するヤンゴンの街中で、新しい洒落た喫茶店やレストランが増えてきている。そうした店では金回りのよさそうなミャンマー人や、進出のために乗り込んできた外国人で連日にぎわっている。ヤンゴンの街中を見る限りでも、この3年ほどで、街中で見る外国人の数は、確実に増えてきている。
ここで少し時間を巻き戻し、ミャンマーが注目され始めた経緯を確認してみよう。長年、軍政による閉鎖的な状況から変化が訪れたのが、2010年ごろからだ。2010年11月、新憲法に基づく総選挙が実施され、同月にはアウン・サン・スー・チー氏の自宅軟禁も解除された。2011年にはテイン・セイン現大統領が就任し、ようやくミャンマーは民政移管を果たした。それまで軍事政権を担っていた国家平和開発評議会(SPDC)が解散し、新政府主導による民主化、国民和解(少数民族との和平交渉、停戦合意の推進)、そして経済改革に向けた前向きな取り組みが次々に打ち出された。最初はこれらの改革に懐疑的だった国際社会も、矢継ぎ早に実施された民主化への動きや、法制度改革、経済環境整備への取り組みから、ミャンマーの変化を感じ取り、ミャンマーへの投資ブームにつながっていった。そして、2015年11月の総選挙において、アウン・サン・スー・チー氏率いる野党・国民民主連盟(NLD)が圧勝し、今後の政権移管が無事に行われる期待感が高まっている。
海外からのミャンマーへの訪問者数の増加は、数値上からも見て取れる。現テイン・セイン大統領が就任した2011年のミャンマーへの訪問者数は、年間約80万人にも満たなかったが、2014年には最低でも3倍以上の300万人へと増加、2015年には500万人にもなる予測が出ている(図表1-1)。
こうした流れの中で、以前は未知の国への進出ととらえられていたミャンマー進出も、もはや一般的な海外企業進出の枠組みで語られ始めてきた。実際に2011年以降、着実に現地に進出する企業は増え続けている。ミャンマーで外国投資法の適用を受けた外国企業は、2011年の13社から、2014年には211社と大幅に増加している(図表1-2)。後述するが、ミャンマーへの進出において、外国投資法の適用を受けるケースは大型のインフラ案件や製造業案件等、全体の進出総数のごく一部なので、実際に現地に進出している企業はこの数字よりも大幅に多い。
ミャンマーに進出する日本企業も、着実に増加傾向にある。ヤンゴン日本人商工会議所の加盟社数は、この3年で民政化以前の約50社から約4倍に増え、2015年7月には250社に到達している(図表1-3)。ミャンマーの民政移管が行われた2011年までは、約50社まで徐々に減少してきたことから見ると、ここ数年での日本企業の進出の過熱ぶりが見て取れる。こうしている間にも、日本企業の事務所開設の動きは急ピッチで進んでおり、今後しばらくは着実に増加することが予想される。
最近の進出の大きな特徴は、今までのような様子見半分や調査を目的とした進出ではなく、より実際の投資や実需に基づく「地に足の着いた進出」が増えてきたことだ。思えば2、3年前はミャンマー進出を検討している企業の記事が連日紙面を賑わし、ミャンマー進出が一種のブームとなっていた。ただその当時は、実際の投資につながるケースは少なく、蜃気楼のようなブームだけが上滑りしていたのが実情だった。一方で、最近は着実に進出企業数が増えている一方で、ミャンマー進出はよほど大きな案件でなければ紙面で取り上げられることもなくなった。ミャンマー進出は、もはや「普通の海外進出」になってきたのだ。