ユーロ圏を信用収縮の影が覆いつつある。
スペインの大手銀行が、現地に進出している日本の大手製造業に融資の引き揚げを打診し始めている。まだ、銀行間市場でスペインの大手銀行が資金を取れないという深刻な事態に至っているわけではない。だが、その危機を未然に防ぐかのような融資抑制に動いている。
市場の動きを見ても信用収縮を示唆する材料には事欠かない。欧州中央銀行(ECB)に銀行が預ける準備預金が増加している。準備預金の期日における超過額は、ギリシャ財政危機が市場を揺るがす前の3月には10億ユーロだったが、6月には13億ユーロにふくらんだ。
ECBへの準備預金金利は、0.25%である。「銀行間での(取引相手に対する)カウンターパーティリスクへの懸念が強まっている」(ロジャー・フランシス・みずほインターナショナルクレジットリサーチディレクター)ため、低い金利水準の準備預金であっても、信用できない相手先に資金を融通するより安全と判断し、準備預金が膨張しているわけだ。
ユーロ圏の銀行間取引金利も急上昇している。EURIBOR(欧州銀行間取引金利)の3ヵ月物は4月末までは0.65%前後で推移していたが、7月7日には0.8%を超え、12日には0.827%にまで上昇した。金融機関の信用リスクが高まったがゆえのことである。
ECBは金融危機対応として実施していた市場を通じた資金供給を取りやめた。昨年6月末に開始した期間1年の資金供給の期限が7月1日に到来したからだ。金融機関の経営状態が健全であれば市場から資金を調達し、ECBに返済できるはずだ。
しかし、ECBが期限当日に実施した3ヵ月と6日間の資金供給に、延べ259もの銀行が応じた。「これらの銀行の多くは市場から資金を取ることができない」(田中理・第一生命経済研究所主任研究員)と見られても仕方がない。
個別の銀行名は明らかにされないが、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、アイルランドといった周辺国の銀行が多いと推測される。ECBの市場を通じた資金供給額は昨年11月から現在まで1661億ユーロ増加したが、「このうち1246億ユーロをギリシャ、ポルトガル、スペイン、アイルランドの4ヵ国が占める」(田中氏)からだ。
こうした状況で、7月23日に公表されるストレステストの結果はきわめて重要である。現状より悪化した経済状態において、銀行がどれだけ損失を被るのかを公表し、資本が不足する銀行があれば公的資金注入の方針を示す予定だ。
甘い基準で発表すれば、市場に疑心暗鬼を生じさせることになる。厳しく損失を見積もって、公的資金を投入すれば信用収縮の影を封じ込めることができるが、世論は容易に同意しないだろう。欧州連合(EU)は金融危機に際しての本質的な決断を迫られている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)