大手電機メーカーが相次いで車載向けリチウムイオン二次電池事業へ参入している。だが、市場の有望性とは裏腹に、車載電池ビジネスの脆さを説く声も業界関係者のあいだでは上がる。電機メーカー間における覇権争い、自動車メーカーと電機メーカーのあいだにおける覇権争いは始まったばかりだ。
NECが、今年12月に発売される日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」用電池の電極の量産を開始する方針を固めた。7月23日に発表された。電極とは、車載向けリチウムイオン二次電池(蓄電池)に欠かせない基幹部品である。
量産体制を敷くのは、NECエナジーデバイスの神奈川・相模原事業場。2011年3月期までに200万キロワット時超の出力容量(リーフ向けとして換算すると、約8万3000台分へ供給できる規模)の生産体制が整う予定だ。
これらの電極はすべて、NECと日産の合弁会社、オートモーティブエナジーサプライの神奈川・座間事業所へ納められ、リチウムイオン電池が製造される。ちなみに、座間といえば、1995年に、経営危機に陥った日産が主力工場の閉鎖に追い込まれた場所でもある。それから15年。今度は日産の戦略拠点として、新たな一歩を踏み出しつつある。
一方、車載電池事業を中核に据えており、歴史的に日産と関係が深いメーカーに日立製作所がある。実際に、自動車部品会社、日立オートモーティブシステムズの売上高の4割は日産向けだ。先般、日立の部品供給遅れから日産工場が操業停止に追い込まれたことは記憶に新しい。
今回、その日立ではなくNECに軍配が上がった経緯について、「(日立は大容量の円筒型電池を提案したが)まだ珍しかったラミネート型と呼ばれる複雑な電池の形状について、日産技術陣がおもしろがって聞いてくれた」(國尾武光・NEC取締役)と振り返る。
とにかく今、電機メーカーは盛んに車載電池事業へ触手を伸ばしている。昨年12月、パナソニックは三洋電機を子会社化したが、買収の最大の狙いは、複数の供給先を持つ三洋の車載電池事業の獲得にあった。
ソニーも動いた。91年に世界で初めてリチウムイオン電池の実用化に成功し、パソコンや携帯電話など民生用では実績があったソニーが、やはり昨年末に、車載電池市場への参入を表明したのだ。
出遅れていた東芝も、7月に、三菱自動車のEV向け電池「SCiB」を採用した電池システムの共同開発を発表した。相次ぐ電機メーカーによる参入で、車載電池市場は百花繚乱時代を迎えている。