イノベーション経営を支えるCFOの役割森 洋之進・アーサー・D・リトル・ジャパン パートナー
藤田欣哉・アーサー・D・リトル・ジャパン マネジャー

成長思考への転換点は
自社IPFの理解にあり

 CFを判断軸とする場合でも、落とし穴がある。事業ポートフォリオ・マネジメントでは、各事業を分断的にとらえ、事業ごとの創出CFを算出し、リソース配分の判断材料として使うのが一般的だ。しかし、それによって将来コアになりうる事業の成長の芽を摘んでしまうリスクがある。

 事業のライフサイクルが短い場合はポートフォリオ・マネジメントによる事業の入れ替えが適合するケースもあるが、各事業を分断的にとらえるために相互関係を判断できない。このため、実際には自社に適さない事業に過剰投資してしまったり、逆に将来のコアになりうる事業がリソース不足に陥ってしまったりする危険がある。

 我々は特定のエンティティ(組織体)の成長基盤は、基底部分に存在する組織風土や創業理念などの「価値層」、強みを創出する源泉である人的資源や知的資産などの「資源層」、資源層を活かして新たな価値を生み出す現場マネジメント力や要素技術開発力といった「能力層」という3つの階層で構成されると考えており、これをイノベーション・プラットフォーム(IPF)と呼んでいる。

イノベーション・プラットフォームは「価値層」「資源層」「能力層」の3つの層から構成され、それがイノベーション(新事業創出)の発着点となり、「具現層」としてのアウトプットを生む。
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 組織は有機的なつながりを持った個体であり、そこから目に見えるものとして生まれ出るのが“事業ポートフォリオ”でとらえられる個別の事業や製品であり、仮に同じ製品を「具現層」として世の中に出している会社でも、IPFは異なると考える。IPFに内包される固有のリソースをうまく組み合わせたり、すり合わせたりすることで異なるビジネスモデルや製品に転換することが可能になる。そのよい例がアップルとソニーで、ともに強いハードやビジネスモデル構想力を持っていたが、ソニーは内部リソースをうまく組み合わせられなかったから、アップルのiPhoneのような製品を生み出せなかった。

 逆にアップルは自分たちのIPFがデザイン力や遊び心にあふれたユーザー・インターフェース設計、あるいは購入の瞬間から使用するシーンまでユーザーに驚きを与えたいと願う思いにあることをよく理解していたからこそ、「デジタル・ハブ」の構想が生まれ、iPhoneという製品やiTunesというサービスの誕生につながった。仮に、我々はPCメーカーだ、携帯端末メーカーだという発想で「具現層」にある製品起点の事業だけを追求していたら、いまのアップルは存在しなかっただろう。

 目に見えている事業単位や製品の期間収益だけに拘泥せず、将来を見据えたストーリーづくりに思考を転換する起点になるのがIPFである。仮に短期的な期間損益で見ると収益性が低い事業であっても、自社のIPFに近いものであればそこに差別化の要素があるはずなので、新たな投資をしたり、内部のリソースをうまく組み合わせたりすることで強い事業に生まれ変わる可能性がある。

 また、これまで多くの製造業がコストを下げるために生産拠点を海外に移していったが、それだけではイノベーションは生まれない。自分たちの強みがすり合わせ技術にあるならば、世界で最も小さく、最もパフォーマンスが高い部品の生産設備に新たに投資することはできないか、あるいはロボティックスを使ってその技術を伝承するための投資ができないか。そうした議論をすることがイノベーションの創造につながるのである。

 リスク・マネジメントもCFOの重要な役割ではあるが、リスクばかりを挙げ連ねてブレーキをかけ続けるのではなく、自分たちのIPFは何かをもっと深く理解したうえで資金投下領域の議論を進め、合理的にアクセルが踏めるよう支援すること、そして同時にその合理性を投資家や金融機関が理解できるように説明することこそがCFOの役割であり、責務でもある。それを実現するための「5つのC」を我々はCFOに提案したい。

 それは、“Cash Flow” ベースで “Clear” な計画、腑に落ちるストーリーを描き、KPI(重要業績評価指標)を設定して執行責任者と“Commitment” を握り、計画実現に求められる“Capability” をCEOやその他関連役員とともに組み立てたうえで、これら4つのCを包括的に語ることによって資本市場との“Communication” のイニシアティブを取っていくことである。

 事業サイドとSide by Sideでキャッシュ創出ストーリーを練り上げ、リスクを負っていける前向きな姿勢――。それがイノベーションを志向する企業において、CFOが取るべきスタンスであると我々は考える。

(構成・まとめ/田原 寛)