復習

京都駅八条口からタクシーで10分。真っ白な正方形で囲われた、ビットの集合のような巨大なビルが姿を現す。ここが世界中のゲームファンを虜にしてきた任天堂の本拠地かと息をのむ。

『ドンキーコング』『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』から『ピクミン』まで、宮本茂は天才的な発想力で京都から世界へとゲームを発信し続けてきた。

「僕はずっとプログラマーに教えてもらいながら、こちらからもプログラマーに提案をして…というスタイルでやってきた」

理系と文系が交錯するゲームという戦場で、アーティストだった宮本茂はプログラムを学び、技術者を説得し、時にちゃぶ台をひっくり返しながら「面白くて気持ちのいいゲーム」を作り世界を驚かせてきた。

「予定調和で作ったものより、積み上げていきながら、アンバランスなんだけど何とかバランスが取れそうといったところでまとめた方が、面白いものになる」

朗らかな関西弁で話す彼の姿に、文系と理系をのみ込んだクリエイターだけが到達できる極みを感じた。
いまやスマホでゲームをやる時代。「ゲームがまた日常に落ちてきた」と語るゲームの天才は、次にどんな世界を見せてくれるのだろうか。

別れ際、任天堂のエントランスにてDSで遊びながら一緒に写真を撮った。疲れていたはずなのに、気付いたら子どものように笑っていた。
やはり宮本茂のゲームには、万人の童心に響く魔法がかけられているようだ。

宮本 茂(みやもと・しげる)
任天堂 専務取締役 クリエイティブフェロー
1952年京都府生まれ。77年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻を卒業後、任天堂入社。『ドンキーコング』(83)『スーパーマリオブラザーズ』(85)『ゼルダの伝説』(86)『F-ZERO』(90)『スターフォックス』(93)『ピクミン』(2001)など、ゲーム史に残る数々の傑作シリーズを生み出したゲームプロデューサー。07年には米TIME誌「TIME100(世界で最も影響力がある100人)」に選ばれ、“ビデオゲーム界のスピルバーグ”と評される。仏レジオン・ドヌール勲章「シュヴァリエ章」(06年)をはじめ、国内外の受賞歴も多数。
 川村元気(かわむら・げんき)
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2010年米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、100万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮崎あおい出演で映画化された。13年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。14年には絵本『ムーム』を発表。同作は『The Dam Keeper』で米アカデミー賞にノミネートされた、Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によりアニメ映画化された。同年、山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』が大きな反響を呼ぶ。一方で、BRUTUS誌に連載された小説第2作『億男』を発表。同作は2作連続の本屋大賞ノミネートを受け、ベストセラーとなった。近著に、ハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議を収録した『超企画会議』などがある。