2007年に独立行政法人に生まれ変わった住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫、以下機構)。4月末に実施された「事業仕分け」第2弾では格好のターゲットとなり、まちづくり関連および賃貸住宅関連の住宅資金貸付業務と、住宅融資保険業務が「廃止」と判定された。
もっとも、住宅金融公庫時代、一時は住宅貸し付けの40%ものシェアを握っていた機構も、01年の特殊法人等整理合理化計画以降、メインプレーヤーの座を民間金融機関へ譲り渡している。すでに事実上の撤退を強いられていたわけであって、今回の残る貸し付け2事業廃止のインパクトは「さほど大きくはない」(ある機構幹部)というのが本音だ。
しかし、同じく俎上に載せられた証券化支援業務については、話が別だ。機構が民間金融機関から住宅貸付債権を買い取り、住宅貸付債権を裏づけとした資産担保証券を発行する業務で、いまや機構の中核事業となっている。
仕分け人の出した答えは「不要資産の国庫返納」。このままでは9013億円(09年度)まで積み上がった出資金の余剰分を吸い上げられるわけだが、機構は「廃止でなければ御の字」(同幹部)と復活折衝に自信をのぞかせる。
住宅貸し付けから証券化に屋台骨がすり替わった結果、今度は国内資産担保証券の発行シェアが膨張した。日本証券業協会によれば、09年度の国内住宅ローン担保証券市場におけるシェアは、85%にも達している(上図参照)。
仕分けを前に、こうした独占的地位がもたらしかねない利権への疑念を晴らすためなのだろうか。じつは、機構は2月末に初めて、債券格付け機関の選定、いわゆる入札に踏み切った。これまでは随意契約が結ばれており、米スタンダード&プアーズと格付投資情報センターの2社が固定客だった。
その他国内外の格付け機関は色めいた。なにしろ、月次債で年間7960億円(09年度)、不定期発行のS種債で9000億円(同)の大量発行において、今後5年間の格付け業務を手中にできるチャンスなのだ。
ところが、である。応募要項の詳細を見たある格付け機関幹部は呆然とした。最近5年間の格付け実績が重視されており、いくら魅力的な手数料を提示しても、参入の余地などないのだ。
たとえば、150点満点のうち60点は資産担保証券の格付け実績である。前述のとおり、資産担保証券における機構のシェアは圧倒的であるため、既存の2社が有利だ。もう60点は引き受け証券会社への簡単なアンケートによって採点されるが、「これまで大きな問題が起こったわけでもなく、既存の2社にバツをつける特段の理由はない」(大手証券幹部)。手数料水準の評点はわずか30点だ。当然、既存2社が選ばれた。
機構は「透明性の確保に努めた」と胸を張るが、つまるところ、現状維持を肯定した、かたちばかりの入札にすぎない。
大きな獲物を逃し、遺恨を抱えた格付け会社を尻目に、9月上旬に大型起債が予定されている。
(「週刊ダイヤモンド」副編集長 遠藤典子)