不貞行為の原因は誰にある?
「そっか、先生……」
「はい」
「今回のこと、私にも原因があるのかもしれません」
「ひょっとしたら、子どもはいらないと言ったのは、ご主人の優しさだったかもしれないですね」
2人がどのような結婚生活を送っていたか、久美さんやご主人が何を考えて毎日を過ごしていたのかはわかりません。また、長い結婚生活の間に一度や二度の浮気があっても仕方ないよね、などと言うつもりもありません。
ただひとつだけ言えるのは、どちらかに不貞行為があった場合、その原因が100パーセント相手にあると「考えない」ほうが、その後の離婚交渉がうまくいくことが多いのはたしかです。
苦しさをお金に変えて、これからの生活の糧にするのは賛成です。ただ、その場合でも被害者意識を持っているとうまくいかないのです。相手が100パーセント悪いと思っているときは、その怨念に引きずられて客観的な判断ができなくなるからではないかと私は考えています。
「先生、今日、午後は空いてます?」
私は「空いてますよ」と答えました。すると久美さんはすっと立ち上がり、会社に電話をしはじめました。午後からの仕事を部下にてきぱきと指示する様子は、「ザ・デキる女」という感じで、横で見ていても惚れぼれします。いくつかの電話のあと、久美さんは再び席につき、こう言いました。
「先生、たしかに私にもいたらないことがあったのかもしれません。私が思っているよりも、ダンナは子どもができなかったことや、私が仕事ばかりやっていることを寂しいと感じていたのかもしれません」
「はい」
「とは言え、今は、ダンナやさゆりを許す気持ちにはなりません」
「それは、そうですね」
「ダンナに子どもができた以上、これ以上いっしょにやっていけるとも思っていません。慰謝料はきっちり取りたいと思います。改めて相談にのってください」
「もちろんです」
「でも、その前にお腹が空きました。先生、お昼食べに行きましょう」
「(笑)。はい、そうですね。ではご一緒させてください」