慰謝料交渉「3か月以内」の法則
ランチをしながら、久美さんのお仕事の話を聞きました。久美さんは今まで手がけたCMや、イベントの話をしてくれましたが、そういった情報に疎い私でも知っているような話題のプロジェクトばかりでした。
「お若いのにすごいですね」
「いえ、もうアラフォーですから。そろそろ現場から外されそうなんですよねー」
「そういうものなんですか」
「まあ、出世っちゃあ出世なんですけど。でも、本当はずっと現場にいたいんですよね。私、マネジメント得意じゃないんで。独立するにも経営には向いてないし。かといって、一生クリエイティブなことに関わり続けるのは、うちの会社では難しいし……」
「そうなんですか。会社ごとに、いろんな事情があるんですね」
食事から戻ってきたところで、久美さんの要望を整理していくことにしました。このようなとき、「離婚後のことを考えるための7つの質問」が役に立ちます。
・離婚したらor離婚しなかったら、何をしたいですか?
・これから住みたい場所、理想的な生活、仕事、人間関係は?
・1年後、3年後、10年後、死ぬ時、どうなっていたいですか?
・それらは、今、できないことですか?
・今でもできることだとしたら、離婚したほうがよいと思いますか?
・将来実現したいことのために、何が必要ですか?
・そのために「今」、しなければいけないことは何ですか?
これらを整理していくことで、やり直しを考えたほうがいいのか、それとも離婚するほうがいいのか、離婚するなら何を優先して交渉すべきかが見えてきます。
「久美さん、最初にはっきりとお伝えするのですが、時間とお金は反比例します」
「と言うのは?」
「離婚までの時間が長引くほど、もらえる慰謝料の金額が下がるということです」
相手から離婚を切り出された場合は、なるべく早い段階で恨みつらみを吐き出して、あとはその悔しさや悲しさをできるだけ早くお金にかえることをおすすめしています。というのも、相手側に離婚を急ぎたい理由があるからです。
今回の久美さんの場合で言えば、ご主人はさゆりさんの出産までにカタをつけたいと思っているでしょうし、たとえ不倫相手が妊娠していなかったとしても、彼女には「いつになったら奥さんと別れられるの?」と、せっつかれているはずです。いつまでも離婚できないようだと、愛想をつかされてしまうかもしれません。ですから、早い段階で離婚に応じたほうがこちらの要求が通りやすいのです。
一方、こちらが離婚に応じずに話し合いが長丁場になると、相手も徐々に冷静になってきます。どうせ長引くのであれば、慰謝料もできるだけ低く済ませようと思うようになりますし、再婚を決意した相手との熱に浮かされたような盛り上がりも徐々におさまって、どんどん現実的になってきます。
相場よりも高めの慰謝料を提示していた場合はとくに、時間が立つほど条件が悪くなる傾向にあります。そうすると奥さんはより納得がいかなくなり、協議はドロ沼化していきます。最終的に裁判になれば、過去の裁判例に照らした相場的な慰謝料におさまってしまいますので、当初の条件よりずっと低い金額で判決が出ることが予想されます。
目安としては、3か月。相手から離婚を切り出されて3か月以内に決断できれば、たいてい有利に交渉を進めることができます。
「ですから、こちらに来た時に久美さんが言ってらした『できるだけ慰謝料をとりたい』と、『できるだけ離婚まで長引かせて困らせたい』は、両立しないんです」
「先生、よくわかりました。私も少し頭が冷えましたので。相手を困らせる、という目線で考えるのではなく、自分がどうしたいか、いくらもらえたら納得できるかという目線で考えるようにします」
「良かった。ぜひ、そうしてください」
(次回に続く)