厳しくも強力な取締役会が必要だ

 経営トップが自らの役割に集中して完遂できるようにするためには、やはり取締役会との緊張関係が不可欠だ。ここで私がイメージしているのは、アメリカ型の開かれた取締役会(ボード)である。

 GE8代目会長のジャック・ウェルチは名経営者として知られる。その彼が、取締役会の5年以上に亘る深い関与と選抜を経た候補の中から、9代目の会長にジェフリー・イメルトを指名した。この後継指名もまた、ウェルチの大きな成果であったと評価されている。

 GEにいまだに伝わっている話がある。退任後のウェルチが、「あなたの成功の秘訣は何ですか」と聞かれたとき、たった一言、「Self-Awareness」、つまり「自覚」と答えたというのだ。

 あるリーダーがチームをつくるときには、どうしても自分と似ている人間を優秀だと考えてしまう。しかも自分と似てはいるのだが、自分よりはできない人間を選んでしまう。それは人間の性だ。しかし自覚があると、自分と異なる優れた点に気づくことが可能となり、「こいつは俺よりできる」と考え、ベストのチームを創れるようになる。

 これはウェルチ個人の能力の話をしているのではない。自覚を持てる人材をいかに育て、変化力を身につかせるかの仕組みづくりの話である。

 取締役会での議論の活性化や「安全地帯ルール」による若手との話し合い、アシミレーションという上司と部下の相互理解のための機会、リーダーシップ研修での360度評価などのすべてが「自覚」を育てるものだ。自覚はより良いチームを創る前提となり、より良いチームならばより良い結果を生むという経営の戦略的な実行なのである。

 それを強力に支えるのが取締役会だ。GEの例では取締役会メンバーは16人いるが、うちイメルト以外は社外取締役だ。そのなかには15年以上も取締役を務めている人もいる(2015年に最長15年の任期制となり、2年の経過措置中)。つまりイメルトよりも長く経営を見ている人がいるのだ。

 取締役会がどれだけ強いかは、経営にとって非常に重要だ。ガバナンス規定には、「取締役の責任は、長期的な視点を持ち、会社の価値を上げていくこと」とはっきり書かれている。彼らは、その基準に基づき執行役員の施策が長期的な価値の向上に資するものなのか、また人材としてふさわしいかなどを議論する。それが指名委員会や報酬委員会での評価にも反映されていく。

 イメルトに、「CEOの仕事として何がいちばんタフか」と聞くと、即答で「ボードディスカッション」と返ってきた。それぐらい社外取締役には“強者”が選ばれるのである。

 例えば株主総会前に出される「招集通知」。日本企業のそれにはさほどのことは書かれてはいない。しかしGEのケースでは、招集通知(プロクシーステートメント)は、いわば経営者の“通知表”だ。「ここまでやれたからOK」「これは未達だった」「したがって報酬委員会は、役員に何万ドルの報酬を与える」云々と、経営陣の評価が詳細に報告されている。

 社外とはいえ彼らも取締役、つまり株主から会社経営を委任された経営陣である。だから招集通知の中で、取締役そのものの適格性も、「これまでの経験・バックグラウンド」、「専門知識」、「独立性」、など多面的に問われ、また、取締役会の多様性も開示されている。

 こうした仕組みは、企業が公的な存在であり、企業が持続されるためには変化する力を持たなければならず、そのためには何が必要なのかという長い歴史の問いかけを経て編み出されてきたものだ。それは言葉を変えれば、企業経営の普遍的な原理原則の追究と実行のための苦闘の成果と言っても過言ではない。私はそう思っている。

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