構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。
多数の企業変革に関わってきたデロイト トーマツ コンサルティング パートナーの松江英夫が、経営の最前線で果敢に挑み続ける経営トップとの対談を通じ、持続的成長に向けて日本企業に求められる経営アジェンダと変革の秘訣を解き明かす。
先週に引き続き日本GEの熊谷氏に伺う今回は、失敗を恐れるあまり「挑戦」に逡巡しがちな日本人気質を打破し、挑戦を促すGEの取り組み、またリーダーシップ論について聞いた。

【風土改革】
「ミスは早くしろ!」でスピードに勝つ!

松江 御社のマーケティングが、小型の超音波診断装置のニーズを掘り起こしたように、他社が気付いてないようなニーズに気付くためのコツに興味があります。熊谷さんが社長として何かを促したり、心がけていることはありますか。

信頼されるには、まず信頼する――<br />「心」で人を動かすリーダーシップ熊谷明彦(くまがい・あきひこ)
日本GE株式会社代表取締役社長兼CEO。カリフォルニア大学ロサンゼルス校経済学部卒。三井物産を経て、1984年GEに入社。2006年2月、GEコンシューマー・ファイナンス株式会社の代表取締役社長兼CEOならびにGEのコーポレート・オフィサー(本社役員)に就任。2011年6月にはGEヘルスケア・ジャパン株式会社 代表取締役会長を経て、2013年12月から現職。

熊谷 ひとつはメガトレンドに特化することです。日本特有のメガトレンドとしては「超高齢社会」と「エネルギー問題」に特化して、とにかく掘り下げる。で、もう一つは、「これ面白そうだな」と思ったら、リスクをとって挑戦をする。リスクアセスメントに長い時間をかけたり、大量の分析をしてから行動するのではなくて、とりあえず小さく早くやることです。

松江 そうするために、意図的に触発するようなことをやってらっしゃいますか?

熊谷 最近は何か新しい案があると、小さく早く、とにかくある程度リスクがあっても取り組みます。これはグローバルの新しい変革、新しいカルチャーづくりの一環として出てきたものです。「シンプリフィケーション」という変革をジェフ・イメルトが3年ぐらい前に打ち上げた。GEは大企業病になりがちですが、これからの時代、もっとスピード重視になる。だからシンプリフィケーションをやるわけです。

 その一環で「ファストワークス」という手法を取り入れた。これはシリコンバレーのITスタートアップのカルチャーそのもので、彼らからリーン・スタートアップの方法を学んだ。小さく早くやりながら、調整して、どんどんアップグレードしていく考え方です。

信頼されるには、まず信頼する――<br />「心」で人を動かすリーダーシップファストワークスのコンセプト

松江 GEのような伝統的なグローバル企業がシリコンバレーから学ぶ謙虚さを持っているというのは興味深いですね。

熊谷 GEにとっては、ものすごいカルチャーチェンジで、今まではとにかくスーパープレミアムテクノロジーという概念が強かった。そのために徹底的に分析をして、時間をかけて、完璧なものをつくり上げて、それを市場に出すんだと。今は変化のスピードが早いですから、時間をかけて製品を出したころにはもうニーズが変わっている。それでファストワークスを取り入れた。