会社の中で、好きなようにできる理由
楠木 サイバーエージェントは、そもそも働いている人が若いし、業界も会社も若い。
やりたいことがあったら「それはこっちのオプションが社外にもあるよね」という感じでやっている人が多そうなんですけど。
サイバーエージェント勤務。2002年に入社後、広告営業や子会社人事などを経て、現在は人事部門にてキャリア採用を担当。人事歴は5年目になる。
佐藤 実はサイバーエージェントが謳っているのは「終身雇用」なんですよ。
大森 へーっそうなんですね。
佐藤 そうなんです。社長の藤田(藤田晋氏)はそう言っています。基本的にそれを実現するために人事は動いているんですよね。昔は本当に独立起業する人が多かったんですけれど、最近は減ってきていますね。
楠木 そうですか。
佐藤 当社の場合は、「好きなようにさせてあげよう」と考えています。けれども、餅は餅屋ではないですが、インターネットに軸足は置いているし、インターネットしか得意分野はないのでその範囲の中での「好きなように」です。その中でやりたいことがあるんだったら、どんどんさせてあげようっていうスタンスです。
ただ、一つだけ注意すべきは、成果を出している人を最優先にしていることですね。「好きなことをさせてあげるのは、そういう人だけ」という話し方なんです。僕もキャリアに悩む人との相談の時には、「まず今の部署で成果を出さないと、好きなことできないよ」という対応をするように意識はしています。
多様性より需要な統合
楠木 僕は傍から見ていて、サイバーエージェントって相当にカルチャーが濃くて強いなと思うんです。一つは話し方が皆さん似てきますよね。佐藤さんの話し方って、サイバーエージェントっぽいしゃべり方ですね。
佐藤 僕、中途なのに(笑)
宮島 波長が合うんじゃないですか、採用の時に。
佐藤 僕も10年以上いるから、そうかも。
楠木 それはある意味、健全なことで。無理やりつくっていく多様性みたいなのがあるじゃないですか。いま、女の人の役員を何%にしなきゃいけないとか。外国人は何%に……とか。
僕は自然とあるところで、みんなが似てきちゃうのはいいことだと思っています。だからこそ、ほかのところで多様性があっても組織としてまとまるので。似るということは、それだけ、会社にカルチャーがあるということだと思うんです。多様性よりも統合のほうが、本当は大切ですよね。
佐藤 そうですね。人が似ていると言われましたが、うちの会社はやっている事業はインターネットに特化こそしているものの、そこからはバラバラなんですよね。広告だったり、動画サービスをやったり、メディアやゲームを提供したり。
けれど実は、サイバーエージェントには「何々やりたい」といって入社する人が少ないんです。要は、「これだけやりたい」「広告だけ突き詰めたい」というよりも、「今は広告事業でやりがいを感じていますが、のちのちはエンターテイメント分野をやりたいんです」という人のほうが多いです。やっている事業は多様ですが、そういった部分でも似ている人は多いですね。
楠木 広告やエンターテイメントなどの、具体的なカテゴリーを見るのではなく、その裏にある、「何がやりたい、何にそそられてるのかな、君は?」みたいなところを、みなさん自然と考えていそうですね。
佐藤 そうなりますね。
楠木 それが、この本の中でしつこく言っている、具体を一度抽象化してから、また、具体に落とさなきゃダメだっていう話なんですよね。そういうことを、自然とやる会社になっているんでしょうね。
佐藤 そうですね。そこの節、まさに読んでいて共感しました。サイバーエージェントのビジョンはすごくざっくりしていて「21世紀を代表する会社を創る」なんです。「じゃあ、それって何なんだよ」という話になるんですよね。
ビジョンを実現するためにやる事業が、いま色々とあります。けれど、それも当然、やっていく中で変わっていくはずです。そのような過程で、各々が具体と抽象の往復を自然と頭の中でやっているんだろうなと、本を読んでいて感じました。