『好きなようにしてください』の読者3名が、著者の楠木建氏と語り合う座談会。後編では部下を持つ3人が楠木氏と若手のマネジメントについて、厳しい主張を交わします。(撮影・鈴木愛子、構成・肱岡彩)

「好きなようにしてください」でマネジメントできるのか

仕事において、プロセスや自己実現は必要ない楠木建
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』『「好き嫌い」と才能』(すべて東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。

楠木 『好きなようにしてください』の一つの本質は、何かを諦めるとか、何かを捨てることとイコールだと思うんですよ。僕の場合だと、いろんな…頭髪のみならず、動員する資源のスケール(前編参照)とかを失っているわけなんですよね。

 僕がどうしても捨てたかったものは、上司部下の関係なんです。僕は、人に率いられることも嫌だったし、もっと嫌なのは人を率いること。だから、絶対に部下っていう存在を持ちたくない。

 ところが、皆さんはマネジャーとして部下を持っていらっしゃる。「好きなようにしてください」って言うのは簡単ですが、これで部下を、パッとマネジメントできるわけはない。『好きなようにしてください』に書かれている内容は、どんなふうに映りましたか?

和田 ここに出てくる悩みっていうのは、自分の悩みに照らし合わせるっていうより、「いま若手が抱えている悩みなんだろうなあ」って思いながら読みました。

楠木 ああ、そうですか。

仕事において、プロセスや自己実現は必要ない和田史子
ダイヤモンド社勤務。書籍編集局第三編集部の編集長として、8名のチームを率いる。

和田 ただし、「好きなようにしてください」って、結局、自分で考えなきゃいけないじゃないですか。言うのは簡単なんですけれど、サポートをせずに、「好きなようにしてください」だけで、本当にいいのかなとも感じました。

楠木 「好きなようにしてください」って、ある意味、きつい話です。何のために「好きなようにしてください」なのかと言うと、あなたが幸せになるのが一義的な目的ではない。仕事を仕事として成り立たせるためには、好きじゃないと上手くなりようがない。人の役にも立てないし、人の役に立って初めて仕事になります。だから、好きじゃないと仕事にはなりませんよ、というのがタイトルに込めたメッセージの真意です。

 だから、相田みつを的じゃないんですよ。「人間だもの」っていう話じゃなくて。わりときつい話をしているつもりなんです。

 僕は、部下を持ったことはありませんが、もし部下を持ったとしたら、「好きなようにしてください」「自分の得意なことはなんですか、教えてください」と言って、なるべく、個人の好き嫌い、得手不得手に合わせて仕事を振ると思います。けれど、どうやっても成果が出なかったら、僕はきっと切ると思うんですよ。「仕事できないね」って言って。

和田 怖い……。

楠木 ただそれは、その人の全人格を否定するわけじゃない。たまたま、いまやっている、この方向で成果が出ないので、絶対ほかにもっと好きになれることがあるから別の仕事についてくださいと。もちろん、それが就業の規則でできる、できないもあります。ただし、僕は、そういう行動を上司として取るタイプだと想像します。