クリントン氏が民主党の代表として本選に進んだとしても、すんなり大統領になれるかどうかは分からない。同氏は、致命傷になりかねないスキャンダルを抱えているからだ。

 最強候補とみられてきたヒラリー・クリントン氏に暗雲が垂れ込めている。数々のスキャンダルだ。

 中でも致命傷になりかねないのが、2015年3月に発覚した「メール問題」だ。国務長官時代に公務で個人メールアドレスを利用していただけでなく、そのメールの中に多くの「機密情報」が含まれていたことが明らかになった。

 クリントン氏が自宅のサーバーからメールを消してしまっていることも、政府要人が書簡やメールを保管しなければならない連邦記録法に違反している上、「オバマ大統領に知られたくない情報があったのだろう」との臆測を呼んだ。

メール問題が命取り!?
メール問題で下院調査委員会の追及を受けたクリントン氏。“取り調べ”は11時間にも及んだ。個人のメールの中に、「機密情報」が含まれていたため、情報漏えいがなかったのか、FBIも捜査に乗り出している Photo:AP/AFLO

 あるホワイトハウスウオッチャーは、「北朝鮮情勢などの機密メールが個人のメールの中に見つかってしまっている。知らなかったでは済まされず、情報漏えいの疑いを掛けられても不思議ではない」と指摘する。

 すでに地元の有力メディアは、米連邦捜査局(FBI)が捜査を始めており、クリントン氏が訴追を受ける可能性があると報じている。刑事責任を問われることになれば、大統領選どころではなくなる。

 当初、「便利だから使っただけ」と強気の弁明をしていたが、大統領選を戦う中で謝罪に転じたことも、有権者の心証を悪くしている。「うそつきヒラリー」とやゆされるゆえんだ。

大統領本選で共和党がネガティブキャンペーンに利用

 クリントン氏のスキャンダルはこれだけにとどまらない。12年に大使や職員ら4人が殺害されたリビアのベンガジ米領事館襲撃事件では、当初、インターネットに流れた不愉快で侮辱的な動画が犯行の引き金だとしていた。実際には、アルカイダ系のイスラム組織の犯行だったが、それを隠蔽しようとしたのだ。国務長官として、アルカイダの抑え込みに失敗している責任を逃れようとしたのではないかとの疑いを持たれている。

 カネ絡みの疑惑も少なくない。例えば、ホワイトウォーター事件。夫のビル・クリントン氏がアーカンソー州知事時代に行った土地開発と取引をめぐる不正疑惑で、大きなスキャンダルになる前に幕引きされたが、クリントン夫妻が何か隠しているのではないかという不信感は払拭できなかった。

 クリントン氏が国務長官時代、夫が設立した慈善団体「クリントン財団」が、外国政府から寄付を受け取っていたことも、ホワイトハウスウオッチャーの間で関心が高い。中国マネーからの不正献金など、新たな疑惑が出てきてもおかしくないとみられているからだ。

 メール問題が訴追にまで発展しなければ、クリントン氏は民主党の指名を勝ち取る可能性が高い。しかし、前述した数々のスキャンダルは、共和党候補が展開するネガティブキャンペーンの格好のネタになるだろう。相手がトランプ氏ならなおさらだ。「うそつきヒラリー」「エスタブリッシュメント側の人間」というイメージを巧みに植え付けることだろう。

 仮に相手が下院議長のポール・ライアン氏になった場合も分は悪い。46歳と若く、共和党主流派であり経験も豊富だからだ。現状に不満を持ち、変化を求める有権者の声を結集しかねない。米国初の女性大統領就任に向けて、越えなければならないハードルは高い。