「オマエ、何やってるんだ!」と役員に怒鳴られる
LFAのプロジェクトで、僕は「空気力学(空力)」のためにサスペンションを曲げるという、前例のない構造をサスペンション設計者にお願いしたことがあります。関係部署の説得には苦労しましたが、最終的には応援していただきながら図面を完成。そして、「これで完璧だ!」と、喜び勇んで技術役員報告に臨んだのです。
ところが、僕が説明を終えるのを待たず、怒号が響きました。
「オマエ、何やってるんだ!空力なんかのためにサスペンションを曲げるんじゃない!」
会議オーナーの技術役員が激怒したのです。というのは、その方は、サスペンション設計の担当部署の出身だったからです。当時は、自動車開発において空力開発は脇役。主役のひとつであるサスペンション設計に比べれば、どうしても重要視されにくかった領域だったのです。にもかかわらず、入社数年の脇役部署の若造が、主役の「聖域」を曲げるというのだから腹を立てないほうがおかしい。
こういう場合、普通は、いったん引き下がるもの──。
そんな処世術など、当時の僕にはわかりません。だから、愚かにも、「いえ、曲げるべきです」と反論。粘りに粘ってしまったのです。もちろん、火に油を注いだだけ。結局、その役員は一歩も譲ってはくれず、設計図は却下。構成を変えて、再度提案することを命じられてしまいました。
「もうちょっと、うまくやれよ……」と、上司はもちろん他部署の先輩からも呆れられました。僕の要望に応えてくれたサスペンション設計の担当者も「サスペンションの性能はまったく問題ないんですけどね、親分にああ言われちゃったら……」とあきらめムード。皆さんの努力が水泡に帰してしまって、「地雷を踏んでしまった……」と、しばらく落ち込んだものです。
しかし、それから1年──。
その出来事も忘れかけたころ、思いがけないチャンスが舞い込んできました。
F1チームへの異動を打診されたのです。願ってもないことですから、もちろん快諾。しかし、不思議でなりませんでした。なぜなら、僕のTOEICの点数はあいかわらず低迷。F1配属の基準をまったく満たしていなかったからです。