ユニ・チャームの社長に就任以来、海外市場の開拓をテコに約15年間で売上高を約3倍に伸ばした高原豪久社長。急成長を支える人材育成の秘密に興味が湧きますが、意外にも「人は育てられない、勝手に育つもの」というのが持論で、育ちたいと願う人がみずから成長できる環境や仕組みづくりに注力されています。その一貫として日ごろ社内で徹底してほしいと思われている行動原則について、著書『ユニ・チャーム式 自分を成長させる技術』から一部を紹介していきま す。

 最後までやり抜くこと、努力を怠らないことは大切です。同時に、物事を深刻に考えすぎない楽観性も重要です。単に気楽な脳天気ということではなく、あらゆる困難に前向きに立ち向かうというスタンスです。

 ただし、どうしても実際は悲観的な考え方やスタンスに陥ってしまうこともあります。どうすれば、常に楽観的に困難に立ち向かえるでしょうか。

仕事ができる人は、なぜ楽観的なのか?<br />そのヒントは「目的志向」にあった!悲観的な考え方やスタンスに陥ったとき、どうすれば楽観的に困難に立ち向かえるでしょうか。

 私の見たところ、楽観的な人は「目の前で起こっている現実への対応」と、「未来に向かって行動する『目的志向』に根ざした対応」とが、しっかりワンセットになっています。

 そして自分が望む未来の状況を想定して、現在の自分の行動をセルフコントロールすることで、思い描いた通りの未来になるはずだという自信を持っているのではないでしょうか。事前準備を周到に行うことによって、難しい局面に急に直面してもきっと乗り越えることができるという自信につながっているように思えます。

 つまり、楽観主義者には、「未来の目的や目標」があって、「いま行うべき手段や過程」があります。ですから、「いま」行っている行動について、なぜ、そのようなことを行っているのかについて、はっきりと説明することができます。

 逆に悲観的な人には、「未来」と「過去」があって、「いま」が無い場合が多いようです。悲観的な人にとって、本来ならば未来に向かって行動しているはずの「いま」という貴重な時間を「でも、しかし、だって、もし……」と悶々とするばかりで、「いま」の自分と対峙しないまま、何もせずに過ごしてしまうのです。

 楽観主義者は、目的を達成するために、まっしぐらに必要な準備をします。できる/できない、好き/嫌いという感情はあったとしても、それが必要かどうかを基準として行動を起こすので「しかし、もし、でも」という揺らぎが介在する隙間はありません。

 そして、さらに楽観主義の特長は、周りを信頼して、上司でも部下でも周囲の人々と常に対等で良好な関係を築こうという意識が強いことです。悲観的な人には、この対等意識が欠けています。人より上位に立つか、下位にあるのか。無意識のうちに、いつも相手と自分を相対評価で測っています。

 では、なぜ楽観主義の人が周りとの関係に対等な意識をもてるのかといえば、成功するか、しないかは、優秀だとか特別な才能のおかげではなく、必要な準備を具体的にしたからだと淡々と考えられるからです。

 事前準備をしっかり行ったから、「自分は目的を達成できた。私にできたのだから、そんなことは誰にでもできることだ」と考えます。ですから、周囲と協力して共通の目標を作り、一緒に物事を達成していくことが苦にならないし、楽しく感じます。つまり「誰でもみんな、やればできる」と思っているのです。

  同時に、皆で取り組むことに時間や手間がかかることを知っているからこそ、横道にそれてしまわないように注意しながら、集中して取り組みます。

  このような経験を通じて、皆で協力し、成功体験や達成感を味わうという、共同体的な一体感である、いわゆる「絆」を醸成することを経験しており、それを「肌感覚」で身につけ、楽しむことができるのでしょう。

  そうした人材に成長するためには、次のような5つが大切だと考えています。

 (1)相手が心を開いて話せるような「傾聴力」
 (2)成功を準備するに足るだけの「ロジカルシンキング力」
 (3)相手の立場を尊重しつつ、相手を説得できる「対話力」
 (4)相手に響く、言いたいことが正しく伝わる「文章力」
 (5)週単位で優先順位を見極めた計画立案と実行ができる「タイムマネジメント力」

 私もこの5つを常に意識し、入念な準備を通じて「楽観的」であり続けたいと思っています。