ファイナンスと会計の橋渡し役に
プルータス・コンサルティング代表取締役社長/
企業価値評価のスペシャリスト
1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。
2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。これまでの評価実績件数は2500件以上。また、グロービス経営大学院などで10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとる。
著書に『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)など。
【編集担当】「ファイナンスと会計は裏表の関係」というシンプルな説明が、野口さんの中に生まれたのには、どんな経緯があるんでしょうか?
【野口】起業するちょっと前、2003〜2004年くらいに、会計の業界全体がちょっとざわついていました。「海の向こうからもうすぐIFRS(国際会計基準)が入ってくるかも」と騒がれていた時期です。
それまでの会計の世界では、たとえばストック・オプション(あらかじめ決められた価格で自社株を買う権利)のようなデリバティブ(ある原資産の相場を指標にして将来の損益を交換する取引)の評価方法がはっきりしていませんでした。ですから、「デリバティブについては、会計上の評価はしないことにしましょう」とされていた。しかしIFRSのルールでは、デリバティブも評価し、費用計上しなければいけなくなる。今までのルールが変わってしまうわけですよね。「これは大変だ」と会計士たちがパニックだったんです。
【楠木】それはよくわかります。会計の人たちにとっては専門外ですからね。
【野口】このパニックに違和感を持ちました。先ほど楠木先生がおっしゃったように、一般の人からすれば、ファイナンスも会計も似たようなものだろうと見る。でも専門家は、ファイナンスと会計はまったく別々のものとして、壁をつくるんですよね。会計の専門家は会計の世界だけを見る。だからパニックになるんです。
デリバティブの評価って、じつはこの本を読めば理解できる程度の、けっこう基礎的な知識で十分なんですが、それがわかる会計士は当時、ほとんどゼロと言っていいくらいだったんです。
それで、僕がゴールドマン・サックスなんかでこの手の商品を扱っていたからだと思いますが、会計士たちがなぜか僕のところに相談に来たんです。そのとき、「これは飯の種になるな」と思いました。
ファイナンスの世界に限って言えば、僕よりも式を知っていたり、複雑なモデルを組めたりする人がたくさんいる。でも、ファイナンスと会計の壁を壊して「バイリンガル」としてつなげられる人はそういない。僕はそれになろうと思いました。
【楠木】なるほど。ファイナンスと会計のせめぎ合いの最前線でお仕事をされていたからこそ、気づく論点ですよね。