「高いリターンを求めるなら、リスクも高くなる」――世の中はこの「ハイリスク・ハイリターン」の法則から逃れることはできないのだろうか?しかし、ファイナンス理論によれば、「リターンはそのままに、リスクだけを減らす方法」はたしかに存在する。一体どういうことなのだろうか?話題のファイナンス理論入門書『あれか、これか』のなかから、以降複数回にわたって紹介していこう。

ノーベル賞理論が実現した
「リスクなしでハイリターン」の夢!?

「その事業はハイリスク・ローリターンだ。やめておけ」などという会話を聞いたことがあるはずだ。これは「失敗する可能性は高いのに、成功したとしても得るものが少ない」ということを意味している。要するに「馬鹿げた選択」の例だ。

こうした言葉の使い方からもわかるとおり、僕たちは「高いリターンを得ようとすれば、高いリスクをとらねばならない」「低いリスクしかとらなければ、わずかなリターンしか得られない」ということをよく知っている。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」という古事成語があるくらいだから、これは古くから認識されていた真理なのだろう。

そう、世の中の常識では、ハイリスク・ハイリターンローリスク・ローリターンしかない。それ以外の組み合わせ、つまり「ハイリスク・ローリターン」は単なる愚行であり、たいていの「ローリスク・ハイリターン」は詐欺話か何かだと考えられている。

ファイナンスの世界でもこの点は変わらない。リスクとは将来の不確実性だ。この不確実性に対する見返り(リスクプレミアム)こそが金利の正体である。したがって、高いリターンを得ようと思えば、当然、それを得られる不確実性も高まるし、確実にその利益を得ることを優先すれば、一度に手に入れられるものも少なくなる。

一方、リターン(金利)というのはもう1つ別の意味――コスト(割引率)としての性格を持っている。人やモノや企業の価値は、それが生み出す将来のキャッシュフローと割引率によって算定される。

価値算定に必要なのはそれだけであり、資産がどんなお金から構成されているか(負債なのか株主資本なのか)はまったく関係がない。