ファイナンスが秘める「底の浅さの奥深さ」

【楠木】僕ね、思うんですけど、人間は性格的に「会計的な人」と「ファイナンス的な人」の2つに分かれると思うんですよ。そうだとすると、ある会社のCFO(最高財務責任者)を決めるとして、会計的な思考のCFOになる可能性もあれば、ファイナンス的なCFOになる可能性もあるということですよね。これ、すごく面白いと思うんです。この2人のどちらがCFOになるかで、その会社の進む方向性がまったく違ってしまう。同じ現象を見ていても視点が違うので、そこから出てくる行動とか変わってくるというか。
ただまあ、「会計的な人」と「ファイナンス的な人」の割合が半々ということはなくて、どちらかというと「会計的な人」のほうが多数派でしょうね。

【野口】日本はとくに「貯金大好き」な人が、やっぱり多いですしね。

【楠木】そう。「今いくら持ってるの?」とか「いくら増えたの?」とか、多くの人がそういうことに関心がありますよね。だから多くの人が会計的な行動をとる。でも、その「会計的な行動」って、時と場合によってはすごく非合理になることがある。だからファイナンスという視点を取り入れると、現金が持つ魔力から離れることができて、行動の選択の基準が磨かれるんですよね。『あれか、これか』が類書と比べて優れているのは、初めに「そもそも会計というのは何なのか」を示したうえで、それとの対比でファイナンスを説明している点だと思います。

【野口】ありがとうございます。

【楠木】ファイナンスをわかりやすく説明しようとする本は多くありますけど、どれもファイナンス理論の基本的な用語や概要の説明から入って、それをひたすらかみ砕いていこうとするものばかりなんです。でも、それだとかえって難しくなってしまう。ファイナンスを理解するために会計と関連づける「補助線」を引くというアプローチ。素晴らしいです。