成功しても「とくに幸せにならないこと」をひたすらがんばっている
彼とシャドヤックは、二人で映画をつくって答えを探すことにした。そのためにベリックはインド、アフリカ、中国の貧困地域を含む世界のあちこちをまわった。旅を通じてわかったのは、どんな環境であれ、最も幸せな人たちは「コミュニティとの連帯感」を持っているということだった。
「これは、すごく社交的になったり、大量に友だちをつくらないかぎり幸せになれない、ということではありません」。とはいえ、事実、彼が出会った最も幸せな人たちは、周囲の人たちと強い連帯感を持っていた。「彼らは声をたてて笑い、愛する人たちのそばにいることを心から楽しんでいました」
幸せであることと、強い人間関係との結びつきは驚くべき新発見というわけではない。だが、ベリックは指摘する。「私たちの多くは、友人たちと時間を過ごすより――ほとんどの場合、大きな家に住み、素晴らしい車や素敵な洋服を買うために――カネ儲けに多くの時間を使っています」
また、「『自分にとって重要なことは何だろう?』といったシンプルな問いを考えるだけで、自分が本当は、ライフスタイルにもう少し価値観を反映させて、幸福度を高められるような生活のシフトチェンジをしたいと思っていることに気づけるはず」とベリックは考えている。
ベリックは自身の生活を振り返ってみて、彼自身、友人と過ごしたり、本当に楽しいと感じられるようなことに十分に時間を使っていないことに気づいた。
「私はいつも、歳を取ったら友だちともっと会いたい、もっと遊びたい、もっともっと冒険に出たい、と思っていました。けれども30歳になるころには、親友と会えるのは一年に一度か二度ぐらいになっていました。私は責任感のある大人として仕事に没頭しようとしていました。『子どもは遊び、大人は働くもの』という考え方を受け入れていました。サーフィンをやめた理由はいろいろありますが、こうした考え方もその一つです。友だちとサーフィンを楽しむのは大好きだったのですが」
映画制作を通じて学んだ教訓をもとに、ベリックは自分が人間的なつながりをどう強められるか、そして生活の中でシンプルな喜びをどう高められるかを追求したくなった。そして親しい友人の一人とサーフィンを再開した。
ベリックの自問はほかにも変化を引き起こした。たとえば、「近所の人たちのことをもっと知るべきではないだろうか?」と思い始めた。
ベリックは、映画のための取材を通じて、最も幸せなコミュニティでは「だれもがお互いのことをよく知っている」ことを知ったが、彼の住むウェストコースト近郊の人たちは快適な自宅に閉じこもりがちだった。
「どうすれば、アフリカやインドの小さな村で経験したようなコミュニティの感覚や連帯感を抱けるだろう?」
ロサンゼルスの高級トレーラーハウスが集まるエリアに住んでいる友人を訪ねたとき、彼はすぐに自分の家を引き払ってそこに引っ越した。そのハウスはフロントドアが共有地に向かって開いていて、近所の人たちがお互いに関わり合わざるを得ないようになっていた。