ダニエル・ピンク(『モチベーション3.0』)、ティム・ブラウン(IDEO社長兼CEO)、アダム・グラント(『GIVE&TAKE』)絶賛!さらに、NYタイムズ、ブルームバーグ・ビジネスウィーク、パブリッシャーズ・ウィークリー他、全米各紙誌で絶賛された世界的ベストセラー『Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法』。
グーグル、IDEO、ネットフリックス、パタゴニアなど、世界で最も革新的な企業で次々と爆発的な発想を生み続けている「驚愕の思考法」とは?
本連載では、「たった1行の問い」から「非凡な思考」を次々と生んでいく画期的な方法について、書籍『Q思考』から紹介していきます。
ゲビアとチェスキーの驚くべき考え方
2007年の秋、ジョー・ゲビアとブライアン・チェスキーは、彼らにとって最も重要な、しかし決して美しくはない疑問を抱いていた。「どうやって家賃を支払おうか?それが当時の私たちにとって最優先の課題でした」とゲビアは振り返る。
当時、ゲビアとルームメートのチェスキーには仕事がなく、お金もそれほど持っていなかった。とはいえ、サンフランシスコではまずまずのアパートを借りており、寝床と生活空間は確保できていた。このアパートは、むしろ地元のビジネス・カンファレンスに参加するために町に来る多くの人にとってのほうがぴったりというべきものだった。市内のホテルはすべて満室で、カンファレンスの出席者はどうしても泊まる場所を見つけなければならなかったからだ。
二人はこうした状況を(彼らは以前、別の町でのカンファレンスに参加したときに同じ経験をしたことがあった)何か間違っていると思っていた。「どうして一晩か二晩しのげる場所を見つけられないんだ?」。そう考えた末にたどりついたのが、「僕たちのアパートが使えるんじゃないか?」というアイデアだった。
ゲビアとチェスキーは自動膨張式のエアマットレスを三つ持っていた。カンファレンスの期間中、エアベッドをそれなりの手数料で貸し出しますという簡単な広告を出し、回収したお金をその月の家賃に充てるという手もあっただろう。ところが二人はふとこのアイデアを拡張し、「もしマットレス以外のものも提供したら?」という疑問を手始めに、あらゆる種類の「もし〜だったら?」を検討し始めた。
提供できるものはそれほど多くなかったが、ちょっとした朝食と観光のヒントをおまけにつけた(ちょっとしたというのはどれくらいかって?「ポップターツ」〔朝食用の甘いお菓子〕だけだった!)。
そして広告サイト「クレイグスリスト」に広告を出し、さらには「自分たちのウェブサイトをつくったらどうなるだろう?」と考えた(二人にはウェブデザインの知識があった)。
以上のことを実行し、お互いに知らない三人の個人に三つのマットレスを貸し出した。全員がサンフランシスコでの滞在を満喫したことはいうまでもない。ゲビアによると、それから二人は「これをビジネスにできないだろうか?」「あらゆる主要都市で同じような体験をつくり出せたらどうなるだろう?」と考え始めた。
こうして二人の夢想家はほとんど無手勝流で当時の常識に風穴を開けた。最初の段階では、チェスキーとゲビア、そして後から誘った三人目のパートナー以外には、これがビジネスとして成立する、つまり支援する価値があると考える人はだれもいなかった。シリコンバレーの著名なエンジェル投資家で、スタートアップ企業の支援会社Yコンビネータを経営するポール・グラハムは、単純にこう考えていた。「だれも見ず知らずの人のベッドに寝たいと思わないだろう」
最終的に「エアビーアンドビー」に発展していくこのアイデアは、「町の外からやってくる訪問者のための宿泊施設は、実績のある著名なホテルでなければならない」という当時の常識への挑戦だった。
勘の鋭い人であれば、ほんの数年前まで自動車について多くの人が同じような感覚を持っていたことに気づいただろう。つまり、車を買ったり借りたりすることはできても、共有(シェア)する現実的な方法などないと思われていたのだ。そこにロビン・チェースという企業家が現れ、こういう疑問を抱いた。「なぜ車をシェアしてはいけないのか?」。こうしてカー・シェアリング・サービスの「ジップカー」が誕生した。