不良債権問題や業界再編をめぐってバトルを繰り広げてきた銀行と監督官庁である金融庁。今夏その戦いは新たな章に突入する。金融庁が用意した50超の指標を前に、銀行は自らの存在意義を問いただされる。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

 手元に「検討会議メンバー限り(取扱注意)」と書かれた1組の資料がある。銀行の監督官庁である金融庁が設置した、「金融仲介の改善に向けた検討会議」の場で6月末に配布されたものだ。

 今夏、この資料をめぐって銀行界では争奪戦が展開された。その資料の中には、金融庁がこれから銀行を監督していく上での指標(ベンチマーク)45項目の素案が示されていたからだ。

 このベンチマークとは、各銀行の顧客・地域貢献度を測定するために金融庁が設定した指標のことだ。福岡銀行、千葉銀行、静岡銀行、常陽銀行(茨城県)、足利銀行(栃木県)、北洋銀行(北海道)、山陰合同銀行(島根県)という大手地方銀行7行にたたき台を示し、銀行経営の評価をする上での実効性について議論を重ね、作り出された代物である。

 金融庁は銀行に対して、10年後も生き残ることができるビジネスモデルの立案を迫っている。そして、地域に根差す地銀は地元企業や地域経済への貢献が地盤の肥沃化につながり、地銀自身の収益に跳ね返ってくると考えている。

 そこで、各銀行が本当に取引先の目線に立った経営をしているのか、地域経済に貢献をしているのかを測定する物差しを用意したというわけだ。

 昨年9月、金融庁が金融行政方針の中で明かしたこのベンチマーク構想は、銀行界に大きな衝撃を与えた。「点数化されて、各銀行の優劣を業界内でランキング化されるのではないか」(地銀幹部)という懸念が広がったからだ。

 それならば、金融庁から問われる項目を事前に手に入れ、“予習”をしていい点数を取りたい。多くの銀行関係者はそう考えた。

金融庁の会議の場で示された、銀行の顧客・地域貢献度を測定するためのベンチマーク案

 その結果、“問題用紙”となるベンチマーク案の争奪戦が始まったのだ。ベンチマークの数は当初案から増えていき、最終的には50項目を超えるまでに膨らんだが、途中段階のものも含めて“問題用紙”は銀行界に広まっていった。上写真もその一つだ。

 ある金融庁関係者は、「ベンチマークは各銀行のビジネスモデルを議論するためのツールで、採点するためのものではない」と語り、銀行界の懸念を否定する。

 また、別の金融庁関係者は今回のベンチマークをめぐる銀行界の騒動に顔をしかめている。「かねて顧客と地域経済への貢献に取り組んできた銀行は、右往左往していない」と指摘。「金融庁が検査をするからと、これまで形式的に取り組んできた自分本位の銀行が今、大騒ぎしている」と、慌てふためく銀行に冷たい視線を向ける。

 金融庁は8月中にもベンチマークの内容を銀行側へ通知する。全銀行での測定を求める「共通ベンチマーク」と、各銀行が自らのビジネスモデルに基づいて選ぶ「選択ベンチマーク」の2種類を設定。銀行からの数値や状況の報告を受け、監督手法に適用していく。