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ウォルマートが大型買収でアマゾン対抗
今度は成功するか

瀧口範子 [ジャーナリスト]
【第401回】 2016年8月12日
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 もう1つは、ジェット・ドットコムの技術。同社のショッピングでは、購入額が大きくなればなるほど値引率が高くなるしくみだ。たとえば、商品を選んでカートに入れ、さらにタグのついた商品を追加すると最初の製品が値引きされる。サイトでは、「歯磨きのようなものを追加すれば、朝食用のシリアルからペーパータオルまで、何でも安くなります」とアピールしている。

 また、無料返品をしないという条件を受け入れ、クレジットカードではなくデビッドカードを使うと、さらに買物総額が安くなる。「トイレット・ペーパーなど、必ず使う商品にすれば、確実に安くなりますよ」とサイトは謳う。諸々の条件がそろえば、他社のサイトでの買物より10~15%ほど安上がりになるのが特徴だ。

 客の買物努力に値引きで報いようというこのしくみを、同社では「リアルタイム節約エンジン」と呼んでいる。アマゾンの価格破壊とはまた別の、複雑なアルゴリズムで客を捉えて離さないという戦略だ。同社は、これまで同社サイトで500ドル以上の節約をした客が5%いるとしている。

創業者はEコマース界のビジョナリー

 ジェット・ドットコムの魅力はもうひとつある。それは、創業者をはじめとするチームである。

 同社の共同創業者でCEOのマーク・ロア氏は、Eコマース業界ではビジョナリー的な存在とされている。同氏は連続起業家で、かつてクイジ(Quidsi)という会社をアマゾンに売却したことがある。クイジは、傘下におしめやドラッグストア、化粧品など複数のショッピング・サイトを抱える持ち株会社で、アマゾンは2010年に5億4500万ドルで同社を買収した。この時は、アマゾンがウォルマートを蹴落として同社を勝ち取ったという経緯がある。売却後、ロア氏は数年間アマゾンに在籍している。

 ジェット・ドットコムの企業評価価値は14億ドルとされるので、今回のウォルマートによる買収額はその倍以上。それも、ロア氏らの創業チームという人材を獲得するための値段だ。ジェット・ドットコムのブランドはそのまま保たれ、ロア氏はウォルマート・ドットコムのトップも兼ねる。

 ただ、ジェット・ドットコムは毎月40万人の新たな客を加え、1200万の商品(SKU)を扱い、毎日25000件の注文を受け、総流通総額(GMV)は10億ドルに達したとされているが、今後の見通しが必ずしも明るかったわけではない。

 当初ジェット・ドットコムは、アマゾンのプライム会員に似たしくみで年会費50ドルを課していたが、集客のために3ヵ月で廃止。また、名だたるベンチャーキャピタル会社から5億ドル以上の資金調達を行っていたものの、マーケティングや広告に毎年数1000万ドルを費やしていたとされる。ロア氏は黒字になるのは2020年以降という予測を口にしていた。

 ジェット・ドットコムの技術と人材、そしてウォルマートが持つ商品数や購買力、小売店としての歴史、流通網が相乗効果を果たして生み出すか。それをじっと見守るのはアマゾンだろうか。

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瀧口範子
[ジャーナリスト]

シリコンバレー在住。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)。7月に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』(プレジデント)を刊行。

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