大病を患う。大けがをする。「いざ」というときの備えはありますか?

サラリーマンのように、退職金も有給休暇もない社長にとって、「将来への備え」は必要です。

「経費」から「決算」まで、必要な知識が全部わかると評判の『新版 ひとり社長の経理の基本』の発行を記念して、税理士の井ノ上陽一氏に教えてもらいましょう。

「将来への守り」も
固めておこう!

「誰も雇わず、ひとりで仕事をする」。メリットもありますが、デメリットもあります。

 ひとり社長のデメリットの1つは、自分しか仕事ができないことです。

 もし、けがや病気で働けなくなったら、収入は途絶えてしまいます。定年がないとはいえ、年齢とともに衰えはありますし、いつまでも今のパフォーマンスを維持できるとは限りません。退職金も有給休暇もなく、会社員に比べてリスクは高いのです。

 なんらかの「守り」をやっておくべきなのは、誰もが認識していることでしょう。私が現時点で考えている「守り」は次のようなものです。

(1)年金
「年金なんてあてにならない」という考え方もありますが、「守り」の選択肢としては考えておくべきです。支払った年金は税金上控除される、受け取った年金も税金上優遇されているという理由もあります。

 ひとり社長なら、自分の給料に対して計算される厚生年金です。「給料を増やす→会社の経費になる→保険料が上がる→年金が増えるが、今の手取は減る」というしくみですので、うまくいいバランスを見いだしましょう。

 健康保険と年金がセットになっているため、給料に応じて両方の保険料が上がってしまうのがネックです。「ねんきんネット」というサイトで、自分の年金額を確認できます。ここで確認すると、「もうちょっと給料を上げて、年金を払っておかないと」という気になりますので、ぜひチェックしてみて下さい。

(2)小規模企業共済等掛金
 ひとり社長の退職金のようなものです。年間84万円まで保険料を払え、支払額は個人の税金上全額控除され、受取時も税制上優遇されます。ひとり社長は会社から退職金を出すこともできますが、現実的には厳しく、自分で積み立てるならこの制度がオススメです。

 月1000円(年1万2000円)から月7万円(年84万円)まで、掛金を変更できるので、今のお金の状況にあわせて選べる点も魅力といえます。ただし、「会社を解散」「満65歳以上または病気やけがのため社長を退任」「死亡」「65歳以上で180ヵ月掛金を払い込んでいる」などといった場合に受け取ることになります。

 任意解約の場合は掛金払い込みが20年(240ヵ月)未満であれば受取額が掛金総額を下回ります。ひとり社長の場合は、掛金支払いによる個人の節税、万が一のときの保障と考えるべきでしょう(掛金の範囲で貸付制度もあります)。

(3)個人型確定拠出年金
 ひとり社長の場合(厚生年金加入の場合)、月2万3000円まで支払え、個人の税金上全額控除されます。受取時も税金面で優遇されています。

 支払ったものを運用できるのが特徴で、その運用によっては増えることも減ることもあります。元本割れ(支払った金額よりも受け取る金額が少ない)のが嫌ならば、全額預貯金に投資すれば大丈夫です。預貯金の他、国内株式、国外株式、国内債券、国外債券などに割り振れます。

 私は多少リスクをとって投資しており、状況を見てバランスを変えるつもりです。今のところ、利回りは年17%ほどになっています。ただ、60歳までは引き出すことはできませんので、どうなるかはわかりません。運用会社によって、手数料や投資できる商品が異なり、私は比較検討して野村證券にしました。