「不妊」は今やだれもが認める社会問題となっている。しかし、まだ依然、産婦人科の医師と患者との間には、知識と意識の双方で大きなギャップがあるという。たとえば、体外受精の妊娠率は20%~30%ほどなのに、少なくない人が「不妊治療を行なえば100%赤ちゃんを授かることができる」という認識であり、また、卵子の老化による妊娠率の低下や、染色体異常の確率の上昇といった事実もまだ十分に知られていない。
そうした問題意識から『妊娠・出産・不妊のリアル』を執筆したばかりの富坂美織氏に、不妊症・不妊治療の最新の情報を解説してもらった。
高齢カップルは「1年」を目安に不妊検査を
産婦人科の医師や医院には「お産」のイメージが強いと思いますが、仕事は大きく次の4つの分野に分かれます。
1. 婦人科の悪性疾患(卵巣がん、子宮がん、子宮筋腫、良性卵巣嚢腫<りょうせいらんそうのうしゅ>など)の手術や内科的治療
2. 産科でのお産
3. 更年期障害等の女性医学
4. 不妊治療
このうち4.の不妊治療を行なう病院には、体外受精のための培養室や液体窒素タンクといった特殊な設備が必要です。そういった意味では限られてくるので、不妊治療を行なう医師が勤務先を変えても、行った先に知り合いがいるという狭い世界です。
ですが、いま日本では、不妊治療の需要が大変高まっています。クリニックの数も世界一です。
不妊治療を受けるカップルは、近年増える一方です。以前は10組に1組といわれていたのが、現在は7組に1組のカップルが不妊だといわれています。不妊治療の現場にいると、カップルのどちらか、もしくは両方に問題があるのが普通なので、子どもが生まれるということが奇跡のように思います。
この連載の第1回として、不妊症および不育症についてお話をしましょう。こうしたことは、かつては女性の側に何らかの問題があるとされてきました。子どもができない責任を一人で背負い、辛い思いをする女性が多かったのです。
しかし、現在では男性に不妊の原因があるケースが多いこともわかっています。だからこそ、この記事は男性にも読んでもらい、不妊にカップルで向き合ってほしいと思います。
まず、不妊症についてお話します。
子どもを希望しているにもかかわらず、普通の夫婦生活をもって2年経っても妊娠が成立しないことを不妊症といいます。ただし最近は、結婚年齢が高くなっているので、1年たっても妊娠しなければ、病院の受診をすすめています。
最近よく受けるのが次のような相談です。
「32歳で結婚したのですが、当初は仕事をしたいのでピルを飲んで避妊していました。38歳になって子どもをつくろうとピルを止めたのですが、2年たっても子どもができません」
「39歳で結婚し、今年40歳です。夫は52歳です。もう子どもをつくるのは無理でしょうか」
「35歳で結婚して、しばらくはお互いに海外出張があってタイミングが合わなかったのです。38歳になったので子どもをつくろうと思っているのですけれど、1年タイミングを合わせても子どもができません」
このように、結婚して数年たってから子どもをつくろうと思ってもできない、もしくは40歳前後の結婚なので、というのが代表的な相談の例です。