子宮の老化はあまり問題にならない

 先ほどもお話したように、女性は年齢を重ねるごとに卵子の老化が進みます。女性は生まれたときからすでに体内に卵子をもっているので、30歳の女性は卵子も30歳。40歳の女性は卵子も40歳です。

 妊娠のしやすさは、年齢に大きくかかわってきます。のちほど説明するように、体外受精の成功率も、年をとるごとに大きく低下していきます。

 一方、子宮の加齢スピードはゆっくりとしています。一般的に高齢になると子宮の老化が問題になると思っている人が多いのですが、実際に問題になるのは卵子の年齢です。このことは不妊治療のしくみを知るうえでも非常に重要ですので、心に留めておいてください。
 なお、卵巣の年齢を測るには、AMH(抗ミュラー管ホルモン)というホルモン値を採血で調べ、治療の目安とすることができます。

卵子の老化を止める凍結保存

 先日、不妊治療の患者さんに子宮筋腫が見つかりました。
 子宮筋腫はできる場所によって妊娠の妨げになります。
 しかし、子宮筋腫の手術をすると、子宮が妊娠できる状態になるまでにあと半年かかってしまいます。すると「もう41歳なのでこれ以上待てません」とおっしゃいます。

 そこで「子宮筋腫の手術をしてからでも体外受精できます」とお話をしました。
 じつは子宮筋腫の手術をする前に、採卵して受精卵を凍結させておくことができます。子宮筋腫の手術をして、半年間子宮を休ませても子宮はあまり加齢しません。41歳の卵子からつくった受精卵を42歳になってから戻しても大して問題ないのです。

 こうした凍結保存は、最近かなり普及してきました。一方で、未受精卵の卵子の単独凍結保存や卵巣凍結は、本来、病気治療のため卵子や卵巣がダメージを受けてしまう場合に限って認められているものです。
 20代で若年性のがんになり、卵巣を摘出しなければならない人、あるいは抗がん剤や放射線の治療で卵巣が強いダメージを受けることが予想される人が、将来子どもをつくる可能性を残すためにはじめられた方法です。

 この未受精卵凍結が、最近メディアに取り上げられて、注目されるようになりました。20代女性のなかには、「彼もいないし結婚も考えていないけれど、将来のために卵子を凍結しておこう」と考える方もいるようです。私のところにも「卵子を凍結させて、いい人が現れるまで待ちたいんですけど」という女性が来ます。

 しかし、一般的に凍結融解できるのは受精卵です。受精卵ではない卵子の融解は高度な技術が必要です。簡単に説明すると、未受精卵、すなわち、卵子単独では、細胞内骨格が未熟なため、その状態で凍結すると、数年後、精子を入れるために融かしたときに壊れてしまう可能性が高く、技術的に容易ではありません。

 ですから卵子だけ凍結しておいて、パートナーが見つかってから精子を入れるというのは、想像以上にむずかしいのです。

 最近、卵子凍結のニーズが伸びるとともに、ビジネスチャンスを感じるクリニックが現れ、メディアで紹介されています。
 未受精卵凍結や卵巣凍結の技術も日に日に進歩していますが、それでも現在のところ技術的にはまだむずかしく、また費用も高額だと知っておいてください。こうした技術には最低50万円程度のお金が必要になります。20代の女性にとってはかなりの負担です。金銭的な面からも困難な選択肢になるのではないでしょうか。

次回は4月25日更新予定です。


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