ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出だけでなく、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。

「カップヌードル」のブランド拡張

日清食品は、近年、新しいブランドを立ち上げるより、「カップヌードル」のブランド力をテコにして、新しい市場を開拓しようとしています。
例えば、カップライス市場の創造を目指した「カップヌードルごはん」や「カップヌードル ぶっこみ飯」があります。日清食品は、これまでにも、1975年発売の「カップライス」、2009年発売の「GoFan」と何度かカップライスにチャレンジしていますが、新ブランドではなかなか定着しませんでした。

しかし、2010年発売の「カップヌードルごはん」では、カップヌードルのブランド力をテコにすることでヒット商品になりました。これを実現できた組織的な背景として、日清食品はブランドマネージャー(BM)制をとっていることが挙げられます。また、社内であっても、カップヌードルのBMからブランドの使用許可とブランド使用料を支払うことで、ブランドを活用することができる仕組みが整っているのです。

別の例では、女性市場の開拓を目指した「カップヌードル ライトプラス」があります。
カップ麺カテゴリー全体が、男性ユーザー中心の市場であるため、このブランド拡張によって、新しく女性ユーザーを開拓しようというものです。製品的には、「ラタトゥイユ」と「バーニャカウダ」という女性に人気のメニュー2品を揃え、女性がカップ麺を避けるカロリーと脂質を抑え、食物繊維をプラスしています。

一方、「カップヌードル リッチ」では、シニア市場とプレミアム市場の開拓を同時に狙ってブランド拡張をしています。健康で元気なシニアが、実際に食べているのは肉やこってりした味のものが多く、美味しさを重視するという発見から、「贅沢とろみフカヒレスープ味」(50円アップの高価格設定)などの製品を導入し、成功させています。

「RIZAP(ライザップ)」のブランド拡張

ライザップは、トレーニングジムで、肉体改造(ダイエットなどのボディメイク)の「結果にコミットする」というブランド資産をつくりあげました。そして、その資産をテコに結果をコミットする対象を「ゴルフ」から「英語」「料理」へと広げるかたちで、ブランド拡張を進めています。
トレーニングジムやフィットネスクラブといった、業界くくり的な分類でブランドを定義するのではなく、「結果にコミットする」というブランド・コンセプトを核にしているので、「英会話」や「料理教室」といった異なる業界(カテゴリー)に拡張していけるのです。
一方、ほとんどのトレーニングジムやフィットネスクラブは、その業界(カテゴリー)でブランディングをしているため、運動、スポーツの領域でしか強みを発揮できません。拡大したとしても、ジムという施設の中で「ゴルフ」や「スキューバダイビング」などのメニューを追加する程度にとどまります。

ライザップは、今後も様々なカテゴリーにブランド拡張していくでしょう。
「時間がかかる割には、成果が出ない」と人々が思っていること。「お金がかかってもいいから、目標を達成したい」と思っていることに、どんどん拡張していくことができます。英語などは、まさに「英会話スクールに通って、本当に話せるようになるの?」と疑心暗鬼。話せるようになるという結果にコミットしてくれるなら、高額でもお金を出す、そういう顧客をしっかり取り込めそうです。

また、ライザップは、「トレーナー」でも強いブランド資産をつくれる可能性があります。顧客に目標を達成させるためには、トレーナーは、トレーニングのスキルが高いだけではなく、顧客に続けさせるカウンセラーのようなコミュニケーションスキルが必要になります。顧客をワクワクさせ、どうやり切らせるか。独自のトレーナー教育によって、ライザップにしかいないトレーナーを育成することで、他社には真似ができないブランドになっていきます。

ライザップは、「結果にコミットする」ことから逸脱しない限り、ブランドをテコにして事業を拡大していくお手本のようなブランドになっていくことでしょう。