『週刊ダイヤモンド』2月2日号の第1特集は、「トヨタ・パナ・ソニーも参戦 サブスク革命」です。いま世界中で「サブスクリプション」なるビジネスモデルが大流行していて、日本でもラーメンから自動車までさまざまな業界で広がっています。日本では単なる「定額制」サービスとして語られることが多いけれど、実際は少し異なるようです。では、サブスクリプションとは一体どんなビジネスモデルなのか、また、日本企業やあなたの職場にどんな変化をもたらすのか。まずは、鈴木洋子記者が執筆したソニーの先行事例から学んでみましょう。

 かつて自らソニーという親元から飛び出し、外で“勝手に”育った子が、親を支える存在になった──。

 ゲーム事業部門のことだ。2018年度で全部門中最高となる3100億円の営業利益をたたき出すことが確実になったのだ。ソニーはゲームの大増益で、連結営業利益8700億円という未知の領域に到達する。

「個人の興味にひも付いた深いデータこそがソニーの武器だ」という吉田憲一郎社長は言う Photo:picture alliance/aflo

 発売から6年目に入り、累計販売台数が1億台に迫る「プレイステーション(PS)4」だが、本体自体の販売台数は踊り場にある。にもかかわらず急成長した原動力が「PSプラス」だ。月額476円(税抜き)を払うと、オンラインで別のユーザーと遊べる「オンラインマルチプレイ」が楽しめるほか、月ごとに配信される約10本のタイトルが遊び放題となる。

 実はこのPSプラス、10年のサービス開始から有料会員を積み上げ続け、今や世界中に約3500万人の会員を抱える世界最大のゲームのサブスクリプションサービスに成長しているのだ。

 PSプラス以外にも、自分で選んだタイトルが遊び放題になる「PSナウ」をはじめ、米スポティファイと連携した音楽、ビデオ、テレビ配信などのさまざまな継続課金サービスが盛り込まれたPS4は、現時点で最強の「サブスクマシン」といえる。

 ソニー自身はこうしたサブスクビジネスを「リカーリング」と呼ぶ。継続的に収益を生み出すビジネスモデルを意味し、カメラ事業の交換レンズや保険事業など他部門でも横展開されている。

 PSプラスの劇的な伸びに支えられ、ソニー全体の売上高に占めるサブスク関連ビジネスの比率は約4割にも達している。

 その中核であるPSプラスは、PS4のユーザーが有料であっても加入したくなる仕組みになっている。大人数でも高精細画面でオンラインマルチプレイが楽しめるという、PS4最大の売りを享受するために、PSプラスが必須条件となっているからだ。

モノを販売して最大の付加価値は
サブスクリプションで提供する

 “所有せずにサービスとして利用する”のが世界的潮流であるサブスクだが、ソニーのそれは「ハイブリッド型」といえる。すなわち、一度PS4というハード本体を購入(所有)した上で、サブスクサービスを利用するという仕組みだからだ。

 これはPSプラスの月間遊び放題についても同様だ。というのも、ここで配信されるソフトが、新たなソフトの購買を誘うよう巧みに計算されているからだ。

 この配信ラインアップには店頭から消えた旧作や、新作ソフトのシリーズ前作などが組み込まれている。PSプラスでの配信をきっかけにブームが再燃したソフトもあるといい、まさにサブスクと購買が密接に結び付いている。

 モノを販売した上で、その最大の“売り”はサブスクで提供する──。このハイブリッドモデルは18年1月に発売され、これまでに2万台以上を売り上げた新「aibo(アイボ)」でも見て取れる。

 新アイボはクラウド上のAIにより、オーナーが100人いれば100通りの個性を持ち成長していくのが特徴だ。アイボを成長させるためには、オーナーは本体を買うだけではなく月額課金のクラウドサービス、つまりサブスクを併せて利用する必要がある。

 単品売り切りモデルだった旧アイボとは大きく異なるこうした“セット販売”であれば、たとえアイボ本体の販売が伸び悩んでも、すでに確保した顧客から定期的に収入が発生し続ける。

 ソニーのサブスクにはさらに大きな強みがある。良質な個人データを取得できる点だ。

「人に近づき、顧客とじかにつながり、個人の興味の対象や趣味嗜好に密着したより深いデータを得ることが、メガプラットフォーマーにはできないソニーの生き残り戦略だ」と吉田憲一郎社長は言う。

 例えば、アイボから収集した膨大なデータを活用し、ユーザーのニーズを掘り下げた次世代サービス開発をしていけば、アイボは「永遠のベータ版」として進化を続けていくこともできる。ビジネス規模はまだ小さいが、その潜在力は侮れない。

 実際、アイボは2月中旬のアップグレードで“見守り犬”に進化する。登録した家族が部屋の中にいるかの安否確認をしてスマホに通知する、というものだ。6月にはアイボによる動画撮影サービスが追加料金で使えるようになる。

 かつて売り切りモデルの典型だったテレビ事業の巨額赤字でどん底に落ちたソニーは、継続課金モデルで復活した。

 ただ、モノの売り上げとサブスクの売り上げを統合した全体の収益管理などについてはまだ課題も多く、体系立てた管理システムを構築した日本の製造業はまだない。

 ソニーがそれを実現できれば、他のメーカーが追随するサブスク時代のモデルケースとなる。

三菱商事も参入を検討する
サブスク最前線を徹底解明

 『週刊ダイヤモンド』2月2日号の第1特集は「トヨタ・パナ・ソニーも参戦 サブスク革命」です。「所有」から「利用」へと消費者の志向が変化する中、「サブスクリプション・エコノミー」が急拡大中です。

 サブスクリプションは、定額制などで継続的にサービスや商品を利用するサービスのことを指し、日本でもスタートアップのみならず、ソニーをはじめトヨタ自動車やパナソニックなど、製造業の巨大レガシー企業までが続々と参入しています。

 総合商社トップの三菱商事が良品計画と連携して、家具のサブスクリプションビジネスへの参入を検討していることも、本誌の取材で明らかとなりました。

 日本では単なる「定額制サービス」として語られることが多いけれど、実際は少し異なるようです。では、サブスクリプションとは一体どんなビジネスモデルなのか、そして、企業やあなたの仕事にどんな変革をもたらすのか、徹底取材しました。「フリー」や「シェア」に続く話題のビジネスモデルの最前線をお届けします。