先の見通しが立たない、未来がどうなるかわからない……。今のような状況のとき、「一流」はどんなことを考えているのだろうか?
「麻布→東大卒」でありながら「プロゲーマー」という経歴が、世間の話題となったときどさん。しかし順風満帆だった彼のプロゲーマー人生は、ゲーマー20年目の2013年ごろに壁にぶつかった。格闘ゲームのeスポーツ化による環境の変化によって、全く勝てなくなったのだ。
2冊目の著書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』では、そのV字回復の軌跡を紹介しながら、ときどさんが毎日やっている「努力のやり方」を紹介している。「圧倒的に変化が激しい」eスポーツの世界で戦うために、必要なこととは何か。ビジネスマンにも役立つエッセンスを語ってもらった。

先行きが全く見えないときは「基本に戻る人」が一番強い

基本とは「考えなくても普通にできる」こと

あらゆる物事は「平凡の積み重ね」でできている。僕はそう思っています。人から見たらすごいと感じることも、そのほとんどは平凡の集積でしかありません。
現在進行形で積み重ねている内容は、自分にとって完成度の低いものです。それをきちんと仕上げて完成した物にして次へ行く。逆にいうと現在進行形の内容は、自分が「平凡だ」と感じるくらいまで仕上げなくてはなりません。「ここぞ」の場面で頼れるものは難しいものではなく、自分にとって平凡なものだからです。

初心者であれば最初に「基本」と呼ばれるものを学びます。

僕がプレイしている「ストリートファイターシリーズ」における基本とは、移動や通常技を自在にできること。その上で必殺技を出せて、相手の攻撃をガードできればまずはOKでしょう。これらは格闘ゲームをスタートするための「基本の基本」です。自動車の運転なら教習所レベルの話です。レベルにかかわらずオンライン対戦を楽しんでいる人であれば、何ら意識をしていなくてもパンチとキックを間違えたり、必殺技の入力方法を忘れてあたふたすることはありません。ジャンプ攻撃を立ってガードしようとして、しゃがんでしまうこともないでしょう。考えなくても自然にできることです。

教習所レベルを終えたら、次に対戦の実地レベルで必要な基本を学んでいきます。簡単な対空攻撃であったり、汎用性のある簡単な連携であったりです。

基本ができていないのに中級に進む人が多い

基本は土台ですから、そこが堅固でないとせっかくの建物も傾いたり倒れたりしてしまいます。にもかかわらず、第1段階で70%ほどの完成度なのに、第2段階、第3段階に移行する人が多くいます。ただ楽しむだけならまったく問題ないのですが、強くなりたい、勝ちたいのであれば基本を120%にしてから次に行く。これがとても大事です。そうでないと、単なる技や知識のコレクターになって終わってしまいます。

例えば「中足払いキャンセル波動拳」という基本の連携があります。「中足払い」を相手にヒットまたはガードさせて、素早く「波動拳」の入力を行う技です。この連携そのものは対戦で脚光を浴びるプレイでもなければ、できたからといってプロゲーマーの仲間から一目置かれる技術でもありません。「誰でもできる、俺もできている」と多くのプレイヤーが認識している「基本」です。

① 中足払いキャンセル波動拳
② 中足払いキャンセル竜巻斬空脚
③ 中足払いキャンセルクリティカルアーツ

これはいずれも僕の使っているキャラクターである豪鬼の技で、①→②→③と難易度が上がります。②も③も「①中足払いキャンセル波動拳」の延長上の技術で、①が土台になっています。

地味な技を決めきれる人は、難しい技も自然にできる

③のクリティカルアーツは、一発で試合が決まることもある大変有効な技です。見た目も派手ですから、皆積極的に練習します。それに比べると①は地味で簡単、ヒットしても与えるダメージは知れたものです。だから「①はもうできている。今さら練習するまでもない」と考えて、②や③の練習ばかりする人が多いのです。

しかし、土台となる技術は①の「中足払いキャンセル波動拳」です。②や③の練習も結構ですが、まず①の完成度を高めることが結局は近道になります。

・離れた距離の相手に届かせるにはどうするか
・実戦で、相手が前後に移動しているときに届かせるにはどうするか
・相手がジャンプしてくる場合はどうするか(ジャンプされているタイミングで中足払いを出してしまうと、その隙に大ダメージをもらってしまう)
・相手が技を出してくるときはどうするか

とあらゆる状況を想定して練習を重ねるのです。難しい状況でも、基本である①をきっちりと決めきることができれば、②や③の成功率も自然に上がっていくのです。

基本の上に物事を積んで、気が付くと積んだ物事も自分にとって基本になっている。基本という名の「当たり前の領域」を増やす過程こそが、強くなることだと僕は考えています。