企業が上場する際に作成する「新規上場のための有価証券報告書」を読むと、当該企業のストックオプション(以下、SO)の配布状況を確認することができますが、SOの配布方針は会社ごとに特色が出ています。最近IPO(株式公開)しているスタートアップの事例をもとに、スタートアップを支援するシニフィアンの共同経営者3人がSO配布の状況、留意点について考えます。

スタートアップにおけるストックオプション付与のリアリティPhoto: Adobe Stock

ストックオプションを付与するにあたっての論点

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回はスタートアップにおけるストック・オプション(以下、SO)の付与について考えてみたいと思います。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):各社におけるSOの付与比率の状況は、普段はなかなか表に出てきませんが、上場時であれば、各証券取引所の規定に従って作られる「新規上場のための有価証券報告書」の1の部に記載を見ることで確認することができます。当書の1の部は証券取引所のHPで公開され、誰でも閲覧することが出来ます。

SO配布の方針には、発行済み株式総数の中でどのくらいの比率で付与するのかという付与比率に加え、発行時期、対象者の選定、対象者への配布バランスといった論点があるかと思います。

朝倉:付与比率から考えると、各社ばらつきはあるのですが、一般的には10%まで付与する会社が多いですね。まれに10%以上の設定をする会社もありますが。

小林:メルカリのSO付与率は20%近くあり、同社上場以降は付与総量を10%以上に設定する会社も見受けられます。一方で、SOは付与比率だけで全てが決まるのかというと、そうではありません。SOがインセンティブとしてうまく機能するかどうかには、対象者の選定、配布バランスが密接に関わってきます。

SO付与対象者の選定には、大まかに3つのパターンがあり、1つは創業者への付与。2つ目は創業者以外の幹部クラスへの付与、そして3つ目は従業員への付与です。前提として、SOはあまりに希薄化してしまうと、インセンティブとしてうまく機能しなくなってしまうという点には留意しておいたほうがいいでしょう。

近年見た事例として、SO付与がインセンティブとして優れた機能を発揮したのではないかと感じたのが、freeeです。同社では、CXOの肩書きがつくような幹部クラスに、まとまった量のSOを発行していました。

朝倉:実は、初期から在籍している経営幹部が、0.数%しか付与されていなかったというケースもありますからね。

小林:はい。他にインセンティブとしてうまく機能しない例として、配布時の行使価格が高すぎたために、IPO以降に行使しても、含み益がわずかになってしまうといったケースもあります。

朝倉:税制非適格のケースだと、SOを行使した後、株式を売却するタイミングの株価次第で、下手したら損が出てしまうといった可能性もありますね。

小林:そうですね。インセンティブとしてうまく機能させるためには、配布者の選定・付与比率・行使価格の設定が適切であるかどうかに留意すべきだと思います。メルカリの事例ですと、行使価格が低い段階で、大量のSOを積極的に付与していました。

具体的に言うと、上場の4期以上前から付与しており、行使価格が20円というSOが一番多かったんですね。同社の上場時の株式の公開価格は3000円でしたので、2980円の含み益があるSOが大量に配られていたということです。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):付与比率だけでなく、行使価格によって、インセンティブとしての効果は全く変わってきますよね。

小林:はい。株主は、付与比率の設定だけでなく、付与時期、付与ペース、行使価格、大まかな対象者の選定は、予め議論したほうがいいのではないかと思います。