週刊ダイヤモンド 東京都内でもようやく桜が満開。会社近くにある代々木公園では、お年寄りや子供連れの母親が、早速花見を楽しんでいました。しかし、世界経済は満開を待つどころか、風が吹けばツボミすら落ちてしまいそうな状況です。

 今回の特集では、“社会起業家”と呼ばれる新しい働き方を紹介しています。

 社会起業家とは、それまでのボランティア活動や社会運動家のように、運動で社会問題を解決するのではなく、事業とそこから得られる利益によって、社会問題を解決しようとする人たちのことです。

 高熱の出た子供を多くの保育園は預かってくれません。ならばと、病児保育に参入したフローレンス。世界最貧国バングラディシュで高品質のバッグを製造するマザーハウス。

 特集では他にも、貧困撲滅、病気、子育て、高齢者、途上国支援など、これまで行政や国政機関が担ってきた役割を、ビジネスマインドを持って解決しようという気概を持った人たちを、約30人紹介しています。

 大不況の中、会社に目を向ければ、新入社員には即戦力が求められ、ベテラン社員にも成果主義が導入され、隣の社員は皆ライバルとなりました。

 うかうかしていれば、リストラの憂き目に遭ってしまいます。ゆっくりと立ち止まり、働く意味や自分がしている仕事の社会的意義を考えている余裕はありません。

 田坂広志・ソフィアバンク代表は「昔は、会社に入れば先輩が新入社員を赤提灯に誘って一杯飲みながら、“俺達の仕事とはなあ・・・”などと、仕事の社会的意義を語ったものです。しかし、今はそれもなくなってしまった」と言います。

 一方、遡ること明治時代。会社という概念が日本に導入された頃です。数々の事業を立ち上げ、日本経済の礎を築いた元祖起業家渋沢栄一は、「論語とそろばん」と説きました。つまり、道徳を伴った経済を重要視したのです。

 また、福沢諭吉は「学問のすすめ」の中で、「衣食住を満たすだけなら蟻でもやっている。人間として生まれたからには、社会をよりよくするために生きよ」と記しました。

 金儲けと社会貢献は対極をなすものではなく、同じ地平にあると言ったのです。

 日本では、元来会社で働くということは、「社会に役立つ」ということと、さほど離れていなかったはずです。

 日本での社会起業家の活動は、ようやく動き出したばかりの段階です。しかし、一時のブームに終わり、桜のように散ってしまうとは思いません。

 社会起業家の方々からは、大変な力強さを感じました。彼ら彼女たちの思いや生き方を知ることは、日本が忘れていたことをもう一度思い出させてくれる気がします。

 この特集が、先行き暗い世の中にあって、働く意味や会社の存在意義を再確認する一助になれば幸いです。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 清水量介)