もっともシンプルな論理思考の入門書わけるとつなぐ -これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義-』が、本日発売されます。この本は、難解な「考える力をつける本」に挫折したり、「論理思考とはフレームワークの使い方を身につけることだ」と思っていた人のための、2時間で読めるストーリー形式の入門書です。
本記事では、著者の深沢真太郎氏が、「考える」と「数学」の関係を説いていきます。「わたしは数学が苦手だ」と思い込んでいる人にこそ、読んでいただきたいメッセージです。(構成:編集部/今野良介)

もっとも「考える」をした学校の授業は?

前回の記事”「ちゃんと考えろ」ハラスメント”でお伝えしたように、私は「考える」という行為を「数学」から教えてもらいました。

次の問いをご覧ください。

【Q1】あなたは「考える」を誰に教えてもらいましたか?

私は、実際に、学生さんや社会人の皆さんに何度もこう問うたことがあります。

その返答として、覚えているものをいくつか挙げてみます。

・「小学校の先生」
・「親」
・「塾の先生」
・「社会人になってから最初の上司」
・「ベストセラーを出している著名な実業家」

「なるほど」、と思う答えばかりです。普通は「誰に?」と尋ねれば、人物を答えるものですから。

しかし、私は、「考える」を教えてくれた相手を、人物ではなく数学という学問でとらえています。授業で教壇に立つ数学教師はあくまでサポート役に過ぎず、実際に教えてくれたのは数学そのものであった、ということです。

私は、同じ人々に対して、こう質問することもあります。

【Q2】あなたが学生時代、もっとも「考える」という行為をしたと思う教科は何ですか?

この返答としてもっとも多いのが「数学」なのです。

あなたは、どうですか?

本当に考えてた?

しかし「数学」と答えた人は、かつての数学の授業で本当に「考える」をしていたのでしょうか。

たとえば、こんな問題があったとします。

――――――

【問題1】
・Y=5X+100(XとYは自然数)
・Xの範囲が1~10のとき、Yの範囲は?

――――――

おそらく、多くの方が次のような計算をすることで、正解を導くでしょう。

――――――

【解答1】
・X=1のとき、Y=5×1+100=5+100=105
・X=10のとき、Y=5×10+100=50+100=150

よって、Yの範囲は105~150

――――――

この問題と解答を見て、かつての数学の授業を思い出した人もいるでしょう。

しかし、この行為は「ただ機械的な計算をしているだけ」であり、単なる作業です。これは、「考える」ではありません。

実際、大人に「数学の授業は何をしていたイメージ?」と尋ねると、もっとも多い答えが「計算させられるイメージ」です。また、ある学校で、数学教師が作ったテストの回答用紙が真っ白なフリースペースと方眼紙だったのを見て、他の教師が「これ数学のテストなんですけど?」と懐疑的な目で見られた、というエピソードもあります。

「数学は計算問題で成り立っている」
「だから数学のテストの回答用紙は、小さい回答欄が並ぶものだと思い込んでいる」

これは、「数学=計算」という悪しき先入観です。

数学は思考力を養う学問

では、数学で学ぶ「考える」とはいったいどういうことか。

もう1つ、次の問題をご覧ください。

――――――

【問題2】
深沢さんの現在の基本給は25万円です。残業代は1時間あたり3000円です。深沢さんは、月収が40万円欲しいと望んでいます。あなたが深沢さんの立場なら、どうしますか?

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おそらくあなたは、まずこの問題の構造を捉えるはずです。具体的には「月収」というものの構造です。つまり、「基本給と残業代の合計が月収である」という構造です。

月収=基本給+残業代
  =基本給+1時間あたり残業代×残業時間

つまり、月収をあげる方法は

(1) 基本給を上げる
(2) 1時間あたり残業代を上げる
(3) 残業時間を増やす

この3つしかありません。ここからようやく具体的な数値を使い、どれが現実的かを考えて答えを出すことになります。

さて、この【問題2】と、先ほどの【問題1】との違いは、どこにあるでしょうか?

【問題1】はすでに計算モデルと数値が用意され、唯一の正解を機械的な作業により求めるだけ。これは文字通り「機械がするに適した行為」であり、「作業」です。

しかし【問題2】は計算モデルを自ら造りました。これは作業ではできません。文章を読み解き、構造を把握し、関連づけをしなければできない行為です。そして計算モデルを造ったうえで、唯一の正解などない問いに対して、自分の答えを出していく。

これが私の認識する数学の姿であり、数学が教えてくれる「考える」という行為の正体です。

数学で学ぶのは「計算力」ではなく「思考力」である。「わたしは数学が苦手」だと思い込んでいる人へ。 Photo: Adobe Stock

計算問題はできるのに文章問題が苦手

実は、数学者の中には「計算は苦手」と公言する人がいます。一般的なイメージからすれば理解に苦しむ発言かもしれませんが、決してそんなことはありません。そもそも数学とは、計算力を養う学問ではないからです。実際、私も計算は苦手です。

こんなエピソードもあります。

私が学生時代のとき、計算問題はほぼ完璧に正答できるのに、文章問題はとても苦労している友人がいました。他にも「数学の文章問題が苦手」な友人は、とても多かったように記憶しています。これは、「処理」は上手だが「思考」ができないことを端的に表す例です。

私は、その「犯人探し」をしたいわけではありません。でも、少なくとも、数学の勉強を通して、「考える」を学べる世の中であってほしいと願っています。数学は、「唯一の正解を導くための処理能力を鍛える学問」ではなく、「正解のない問題に答えを出すための思考力を養う学問」だと思っているからです。

次回の記事で、私が数学で学んだ「考える」の正体を解き明かしていきます。

具体的には、「考える」とは、たった2つの行為だけから成り立っています。

それは、「わける」と「つなぐ」です。

深沢真太郎(ふかさわ・しんたろう)
1975年神奈川県生まれ。ビジネス数学教育家。BMコンサルティング株式会社代表取締役。一般社団法人日本ビジネス数学協会代表理事。数学を用いた論理的思考力をビジネスに活かす「ビジネス数学教育」の第一人者。日本大学大学院総合基礎科学研究科修了、理学修士(数学)
「ビジネス数学検定」国内初の「1級AAA」(最高ランク)認定者。SMBCコンサルティング株式会社などの大手企業や、早稲田大学、産業能率大学などの教育機関の研修・講座に登壇するほか、プロ野球球団やトップアスリートの教育研修も手がける。これまで延べ1万人以上を指導。テレビ番組の監修やラジオ番組のニュースコメンテーターなども務める。
著書に『そもそも「論理的に考える」って何から始めればいいの?』(日本実業出版社)、『数学的に考える力をつける本』(三笠書房)、『「仕事」に使える数学』(ダイヤモンド社)など多数。