「考える力を磨く」「思考力を養う」も大事ですが、ベースとなっているのは、じつは「暗記力」です。算数・数学も例外ではないのです。
46年間、教育一筋――都立中高一貫校合格者シェア52%で業界1位、都立高合格者数1位を獲得した東京都随一の学習塾「ena」の学院長である河端真一氏の最新刊『3万人を教えてわかった 頭のいい子は「習慣」で育つ』が発売たちまち重版。結果を出すことで証明してきた、その教え方・学ばせ方は、まさに、最強にして最高の子育て論であり、塾教師としての立場でできることではなく、家庭にいる保護者ができることをまとめたのが本書です。
本連載では、子どもたちにとって貴重な時間を保護者としてどう接するか、保護者の対応次第で子は変わるということを実感していただき、今すぐできることを生活に取り入れてください。この夏休みからぜひ取り組んでほしいことを、本書から一部抜粋し、やさしく解説していきます。
暗記を軽視してはいけない
算数・数学は「考える科目」で、歴史や英語のような「暗記科目」とは違うという人もいますが、私はそうは思いません。
算数・数学も暗記科目です。
大学や大学院で数学を専門的に学び、これまでにない新たな定理の発見を目指すというのであれば、確かに数学は「考える科目」ということになるでしょう。しかし、そのような分野を目指す人はごく一部です。
ほとんどの人は、大学に入って自分の希望する勉強をするために、その基礎として高校で数学を学びます。また、高校の数学を学ぶための基礎として中学の数学があり、そのまた基礎として小学校の算数があります。
いずれにしても、ほとんどの人が勉強する算数・数学は基礎です。
新しいことを発見しようというのではなく、基礎を勉強しようというのですから、あれこれと思考を巡らす必要はありません。先人が発見し、後世に受け継がれた業績である公式や解法を活用すればいいだけです。
受験に限らず学校のテストで出るものも、公式・解法を知らなければ解くことができない問題ばかりです。だからこそ、算数でも数学でも、まず公式や解法をきちんと暗記する必要があります。
なかには将来の役に立たないような、あまり意味のない解法もあります。
たとえば、中学受験の算数で習う「植木算」「つるかめ算」「旅人算」などです。
ああいった計算方法を習得しても、実社会に出て使うことはめったにありませんし、また中学校以降で習う数学ともつながっていません。
しかし、中学受験ではそれらの問題は必ず出ます。受験では、ふるいにかけて合格者を選抜しなければならないので、無意味と思われる問題もたくさん出るのです。
本来ならば、社会に出てから役立つ知識につながっていくものとして学校の勉強があり、入学試験があるべきなのですが、残念ながら現在はそうなっていません。
それを嘆いたところで状況は変わりませんから、ひとまずは希望する学校に入るために欠かせないものと割り切って、公式や解法を懸命に暗記するしかありません。
ところで世間では、「考える力を磨く」とか、「思考力を養う」などといって、考えることが尊く、暗記は悪者のように扱われる風潮がありますが、それも間違った考え方だといえるでしょう。
算数・数学に限らず、社会、理科、英語、国語も、小学校から高校までの勉強において、ベースとなっているのは、じつは「暗記力」です。
たとえば、国語のテストで、「作者の心情を100文字以内でまとめなさい」などという文章読解の問題が出ますが、そこでは問題文のなかから該当する箇所を抜き書きして要約することが求められています。その意図に反して、一から考えてオリジナリティある文章を書いても0点になってしまいます。
一見「考える科目」のように思える国語でも、公式に則った答え方が求められているということです。そうでなければ、テストの採点にも非常に時間がかかってしまいます。
基礎的な勉強とは、自分が知っている知識・技術をどのように使って目の前の問題を解決するかを問われるものがほとんどです。したがって、覚えているか覚えていないかで、大きく差が出てしまいます。だから、覚えるしかないのです。
子どもにどんな教育を受けさせるかは、最終的にはそれぞれの家庭の問題です。保護者が子どもに何を学ばせたいか、子ども自身がどう育っていきたいかは、自分たちで判断して決めるしかありません。
将来、子どもに世界に羽ばたく人材に育ってもらいたいのであれば、競争に勝てる「生きる力」を身につけさせてあげる必要があります。
「生きる力」とは、基礎的な学力です。
そのためのメルクマールとして大学入試があります。そして、大学入試にチャレンジするためには、小学生の段階から暗記力を鍛えておくことが大切になります。
【POINT】
算数でも数学でも、公式や解法をきちんと暗記し、
小学生の段階から暗記力を鍛えておくこと。