来たるべき100億人・100歳時代をつくる 「3X」とは何か

最先端のテクノロジーが集結した宇宙開発。その実行の一端を担う宇宙飛行士は、テクノロジーの進化とどのように向き合っているのか。また、地球規模の課題に宇宙という別次元からその解決策を探る視点の先には、どのような未来が見えているのか。エンジニアであり、宇宙飛行士であり、母でもある山崎直子氏は、宇宙を中心に多元的に現代の問題を捉える。そこには、地上で、平面的に生きるわれわれにはない課題解決のアプローチがあった。(聞き手/三菱総合研究所先進技術センター センター長 関根秀真、構成/フリーライター 間杉俊彦、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)

ロンドン行きの便の次に
宇宙行きの便が飛ぶ空港

関根 宇宙服を着ている姿の印象が強く、宇宙飛行士の方が地上でどのような活動を行われているか、われわれにはなかなか想像がつきません。現在はどのようなことに取り組まれているのですか。

山崎 2025年の大阪・関西万博のシニアアドバイザーとして、出展者の方々と一緒に未来を構想する取り組みを行ったり、福島県に開校した公立中高一貫校の「ふたば未来学園」などで特別授業を受け持ったりしています。これらは、防災や復興という課題に、中高生や学生たちが世界中に自らネットワークをつくり、主体的に取り組むリーダーになる人材を輩出したいという思いで、取り組んでいるものです。

 未来や宇宙をキーワードにさまざまな活動を進めていますが、その大きなものの一つは一般社団法人スペースポートジャパンの代表理事としての活動です。18年に設立された法人で、日本に人が行き来できる宇宙港(スペースポート)を複数造り、アジアの宇宙輸送のハブになるような中核都市をつくることを目的とした組織です。

地球規模の課題を宇宙からの視点で解決する(c)2020 canaria, dentsu, noiz, Space Port Japan Association.
スペースポートジャパンが描くスペースポートシティ構想図。海上に浮かぶ複合施設から月や火星に向けてスペースプレーンが飛び立つことが想定されている

関根 かつては東京へのアクセスが都市づくりの重要課題だったのが、今や宇宙へのアクセスがテーマになっているのですね。そこには地方創生のような観点も含まれているのでしょうか。

山崎 もちろん、そうです。むしろ、地方で宇宙港を中心とした街づくりができれば、地方の活性化に大きく役立つとして積極的に推進しています。地方創生には東京の機能や人口を分散するというイメージが強いですが、国外を含め離れた都市同士をシームレスに結ぶということも大事なことだと考えています。

 そこで大きな役割を担うのがスペースプレーンです。将来の可能性として、航空事業における国際便の5〜10%はスペースプレーンに移り変わっていく可能性もあります。そうなったときに、日本の各都市の宇宙港がアジアのハブになることをイメージしています。今、構想されているスペースプレーンには現状の滑走路を共有できるタイプのものもあります。地方都市の空港からロンドン行きの便の次に、宇宙行きのスペースプレーンが飛ぶ、という世界観です。

関根 ワクワクする未来ですね。ただ、そうした社会課題の解決に関して、なかなか宇宙を解決のアプローチにするという取り組みは少ないように思えます。

山崎 おっしゃる通り、環境問題にしろ、その解決の手段として宇宙が入ってこないもどかしさはあります。ただ、SDGsでも取り上げられるようなウィキッドプロブレム(地球規模の難題)の中には、地球というリソースだけでは解決が難しい問題もあります。そこで、宇宙から地球の課題を見る視点が大事になってくるのです。一例を挙げれば、環境に負荷をかける工場、発電所などを宇宙に持っていくという発想です。地球の環境を守るために、宇宙というリソースを活用する、こうしたダイナミックな視点も必要だと考えます。