<3X>と<共領域>を両輪に、豊かな未来をつくる

地球規模の課題が山積した変化の時代に、いかに未来を見通すか――。日本を代表するシンクタンク、三菱総合研究所の創業50周年記念研究の成果が書籍になった。『スリーエックス 革新的なテクノロジーとコミュニティがもたらす未来』は、「技術」と「コミュニティ」を軸に人類の来し方を振り返りつつ、これからの人間と社会の行く末を改めて問う一冊だ。同社先進技術センター センター長で、50周年記念研究プロジェクトのリーダーを務める関根秀真氏に、同書が生まれた背景とそこに込めた思いを聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美)

「人が真ん中」の未来を描く

――本書では、「技術」と「コミュニティ」が重要なキーワードになっています。

 はい。より具体的にいうと、3つの領域の技術群がもたらす社会変革を「3X」、3Xによって実現する新たなコミュニティを「共領域」と名付け、この2つを未来創造の両輪と位置付けて、50年後の未来へのロードマップを描きました。

――今回は、主に3Xについて伺いたいと思います。3Xとは、デジタル(DX)、バイオ(BX)、コミュニケーション(CX)という3つの領域のトランスフォーメーションを指すとのことですが、この3領域に着目した理由を教えてください。

「人」を起点に未来を考えたからです。未来研究というと、どうしても社会や国家という大きな枠組みから語られがちです。すると、そこに生きる一人一人の姿が見えにくくなる。しかし、社会も国家も、突き詰めれば人が主体です。そこで本研究では「人を変革し得る技術とは何か」を考えるところからスタートし、3つの領域に着目することになったのです。
 
 まず、デジタル技術が現在進行形で暮らしを変えていることはご存じの通りです。しかし人間も生き物ですから、全てをデジタルで解決できるわけではありません。生物である人間そのものの変容にはバイオ関連の技術群が欠かせませんし、人と人のつながりに関わるコミュニケーション関連の技術群も重要です。一方で、社会インフラ関連の技術――例えば、交通や電力システムなどは、本書において扱いのウエートを低くしています。それらを軽んじているわけではなく「人が真ん中」としたが故のことです。
 
 また未来論としては、「目指す未来」を「5つの目標」として明確に打ち出した点に本書の特色があると考えています。ディストピア的な未来像を示して危機感をあおる言説をよく目にしますが、やみくもに不安を募らせるのではなく、ありたい未来に向けた方法を考えることが重要です。そのためには、未来に向けた冷静な視点と創造力の両面が必要となります。本書で示した未来像や方策こそが正解、というつもりはありません。異論反論も含め、未来に対する議論の出発点として活用していただけるものになったと考えています。

――企業も、未来像を描くことに苦戦しています。

 先が見通せない時代だからこそ、長期的な視点で自社の存在意義を問い直さねばならない――。今経営者に共通する課題意識だと思います。本書の出版に先立ち、今年1月に報告書(「『100億人・100歳時代』の豊かで持続可能な社会の実現」)を発表しましたが、この時もさまざまな企業の方から「ビジネスの時間軸を考える参考になった」という声を頂きました。