テクノロジーによってもたらされる
新しい自由とは
関根 少し視点が変わりますが、コロナ禍という世界的規模での災厄に関して、われわれ人類が学ぶべきことは何でしょうか。
山崎 私はこのコロナ禍で、危機管理の大切さを、あらためて感じました。もちろん感染症の発生を予測するのは難しいでしょう。ただ、それが続いた場合に社会に与える影響が大きいものなら、不確定要素があっても備えなければなりません。宇宙船の場合、徹底したシミュレーションを行い、メンバーの意識合わせをします。生命に直結することですから、何を残して何を捨てるか、優先順位をしっかり決めます。
宇宙に行く前には、クルーはみんな遺書を書くんです。悪いことを想像するのは縁起が悪いという印象もあるかもしれませんが、そういうことではなく、残された人が困らないようにするわけです。そのように準備をしておくと、逆に安心できます。
東京大学大学院工学系研究科修士課程を修了後、NASDA(現・JAXA)職員を経て、1999年、国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する宇宙飛行士の候補者に選ばれる。2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号によるISS組立補給ミッションに参加。現在は内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事などを務める。著書に『宇宙に行ったらこうだった!』(リピックブック社)、『宇宙飛行士になる勉強法』(中央公論新社)などがある。
また、コロナ禍によって、自分だけでリスクを抱えるのではなく、チームやコミュニティで対処することの重要性をあらためて感じた方も多いのではないでしょうか。これも宇宙開発につながることがあって、例えば、宇宙船を造るのは非常に複雑な作業です。まず大きなテーマからブレークダウンして、やるべきことを細かく明確にし、それを分担して、最後にくっつける、というプロセスですが、これがなかなかうまくいきません。時に100回ぐらいインタレーション(反復)を行いながら最適解を見いだして、完成に向かいます。そこで重要なのは共通目標です。そこが明確に共有されていれば、試行錯誤があったとしても、優先順位に従って解を見つけていけるのです。
関根 最後に、山崎さんにとっての「豊かさ」のイメージを教えていただけますか。
山崎 パッとイメージするのが「自由であること」ですね。言い換えれば、物理的にも精神的にも制約にとらわれずに、自分でいろいろな中から選択できる余地がある、ということ。コロナ禍によって、私たちはさまざまなレベルでの不自由さを経験しました。今まで当たり前と思っていたことが制限されるのは、やはりつらいことです。ただ一方では、オンラインでのコミュニケーションの便利さも体感することができました。
リアルに人とつながれるのが一番いいですが、離れていてもつながることができる、というのも一つの自由かもしれません。バーチャルリアリティのテクノロジーもさらに発達するでしょうから、仮想空間上で行きたい所に行くことができ、一方で、スペースプレーンなどの交通手段が進化すれば、遠くの人たちに今以上の気軽さで会いに行ける。これからの豊かさとして、バーチャルとリアルの両輪での自由が味わえる、ということがあるかもしれませんね。