転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。ビズリーチの急成長を支えてきたのが「問いを立てる力」と「問い抜く力」です。そして、あきらめる人とあきらめない人を分けるのは「内なる問い」の存在にあります。本書に収録した学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事、小林りんさんの解説文を抜粋して紹介します。

■小林りん氏が解説「問いを立てる力」01回目▶「ビズリーチ創業者南壮一郎氏を突き動かした「内なる問い」と「外向きの問い」」
■小林りん氏が解説「問いを立てる力」02回目▶「成長する人と成長しない人のたった一つの違い」

あきらめる人とあきらめずにやり抜く人のたった一つの違い『突き抜けるまで問い続けろ』の解説文を執筆した学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事の小林りんさん(写真左)とビズリーチ創業者の南壮一郎さん(写真右)は、モルガン・スタンレー時代の同僚であり、20年以上の友人でもある。

 問いを立てる力には、もう一つの大切な要素がある。それは、問いには必ず行動が伴うということだ。

 私もスイミー(編集注:ビズリーチ創業者南壮一郎氏のこと)も20代は転職回数が多かった。何も知らない人が見れば「大丈夫?」と心配するほどに多いのだ。だが、それは私に言わせれば自分なりの問いの立て方の表れでもある。

 問いは、ただ頭の中で考えを巡らしているだけでは何も変わらない。「こっちかな」「あっちかな」と絶えず行動し、壁にぶつかり、「ありゃりゃ」と反省して方向転換をする。そんな試行錯誤を繰り返しながら、本当にやりたいことを見つけてきた気がする。

 スイミーも、自分が起こした行動をきっかけに、楽天イーグルスの創業メンバーの座を掴み取った。起業後も自分で考えて行動し、自分の仮説を形にしながらチャンスを獲得していった。

 頭の中の考察は、問いを立てるプロセスの一部に過ぎない。チャンスは、常に行動から生まれる。どうにもならないと思っているときも、勇気を持って一歩踏み出した途端に、全く違った風景が広がることがある。

 個人的には、日本でも若いうちからもう少し気軽に転職ができて、自分の立てた問いに行動を起こせる社会を育んでいくべきだと思う。

 その意味で、スイミーが日本でそれを促すような転職サービスを提供しているのはとても興味深いし、運命的なものを感じる。

 もちろん、全員が気軽に何度も転職すべきだという話ではない。転職せずとも、工夫次第では、今いる組織の中で十分に変化を起こせる。ましてや現代の社会では、兼業や副業といった選択肢も一般的になりつつある。大切なのは、自分の意識次第で変化はいくらでも起こせるという事実を理解することだ。

 私自身、現在は日々の学校運営を校長以下の現場に任せて、理事会の運営と経営に専念している。おかげで40代になってから、半年間のサバティカルを取って、海外の大学のフェローシップ制度に参加し、自分の人生を改めて考え直したり、帰国してからは次世代の教育や起業家を育てるプロジェクトを立ち上げたり、コロナ禍で国境が閉じられ学校経営が危機にさらされても、それを機に完全オンラインの教育プログラムをつくったりと、新しいことに挑戦できている。

 問いを立て続けることは、そして立てた問いを解決するのは、決して一人ではできない。スイミーが言っているように、信頼する仲間を見つけ、背中を預けられるチームをつくり上げることもまた大切なのだ。

覚悟が決まれば、「絶対にあきらめない」

 取り組む課題が大きいほど、壁に突き当たり、頓挫の危機に見舞われる可能性が高い。このとき、あきらめる人とあきらめない人を分けるのは「内なる問い」の存在にある。自分が心から解決したい課題なのか、そして覚悟があるかが問われる。

 それに気づいたのは、ISAKを立ち上げて3~4年目の一番苦しい時期だった。あらゆる物事が計画通りに進まず、何度もプロジェクトが暗礁に乗り上げた。

 そのたびに、地を這うような思いをして問題解消に奔走する。すると、苦境を見かねた周囲から決まってこんな声が上がってくる。
「苦労ばかりなのに、なぜ続けるんですか」

 私自身、「なぜ自分はこれをやめないのか」と何度も考えた。
 そのとき、いつも行き着いたのは「内なる問い」の存在だった。
「私はこの事業をやるために生まれてきた」。紆余曲折の多かった自分の人生を振り返って、すべてはここにつながっていたのだと素直にそう感じ、自分が心からやりたいことだから、やり切ろうという覚悟を改めて思い出した。

 だから、この事業を始めて以来、あきらめるという言葉は私の辞書にはない。むしろ厳しい局面ほど闘志が湧き起こってくる。恐らく、スイミーの生き方も似たようなものではないかと想像する。彼の考え方と行動は、私にとっては、問いを立てる力のお手本でもある。

 現代は、社会構造が「内なる問い」の重要性に目を向けることを阻んでいる。多くの会社において出世したいと思ったら、自分と向き合い、自分の問いを持つことは、あまり役には立たない。

 伝統的な日本の会社では、組織の中で失敗しないよう、上司の逆鱗に触れないよう、社内政治に迎合していくことが幸せにつながるというインセンティブ構造が、今なお根強く残っている。

 しかし、昨今の日本の働き方改革について触れるまでもなく、こうした仕組みが主流となる時代は間もなく終わる。

 果たして、あなたが本当にやりたいことは何だろうか。
 あなたが、社会や会社に求めているものは何だろうか。

「内なる問い」と「外向きの問い」に向き合い、その問答の末に自分のやりたいことを見つけていく。

 スイミーの生き方は、その重要性を理解する格好のケースになるだろう。(完)