豊田章男社長は2009年、世界で最も危険ともいわれる独「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」に自らドライバーとして参戦した
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 トヨタ自動車が今年12月に発売するスポーツカー「レクサスLFA」。国産車史上最高価格の3750万円にもかかわらず、事前予約で500台がまたたく間に完売した。

 このLFA、単なる高価なスポーツカーではない。クルマづくりの発想転換を目指すトヨタの新プロジェクトの一翼を担うのだ。

 2010年1月に始動したスポーツ車両統括部。この組織は豊田章男社長の肝煎りでつくられ、異例の権限が与えられている。予算をどのように使ってもよく、いつまでに何台のクルマを開発せよといったシバリはまったくない。スポーツカー開発について、フリーハンドの意思決定権限を持つ。

 会議に会議を重ね、慎重に開発の意思決定を下すトヨタにおいてもこれまで、10年前に異業種と連携し発売した「WiLL」など新たな試みはあった。

 だが、WiLLは既存の車体を流用したもので、団塊ジュニアの趣向を探るマーケティングが主な目的だった。今回のような大幅な権限委譲は初のケースだ。

 総勢60人の統括部は、開発のほかモータースポーツの企画にも当たる。LFAを欧州のレースに出場させ、そこで得たノウハウ、楽しい乗り味を一般の乗用車に反映させる役割も担う。

 統括部の発足は、大のクルマ好きで、自らもレースに出場する豊田社長ならではの取り組みともいえるが、そこにはトヨタの強い問題意識が隠れている。

 これまでのトヨタ車は「壊れない」「安全」に象徴されるように品質が高く評価される一方で、「おもしろくないクルマと言われる」(内山田竹志副社長)ことがあった。豊田社長をはじめとした経営幹部の危機感は、まさにそこにある。

 トヨタを筆頭とした日本の自動車メーカーの主戦場は今、「おもしろくないクルマ」に移っている。各社はこぞって、新興国向けの低価格車の開発、発売に動いている。だが、ここでは地場メーカーとの熾烈な競争が待ち受けている。

 日本メーカーの大きな収益源である北米向け中型セダン市場においては、すでに韓国の現代自動車などの猛追を受けている。今後の有望市場であるのは疑いのない電気自動車の分野でも、中国メーカーの参入が相次ぐ。

 日本メーカーの足元は盤石ではない。一方で、アウディやフェラーリといった欧州メーカーはリーマンショック直後から世界中で売り上げを伸ばし続けている。デザインや走行性能、ブランドイメージが高く評価されているのだ。

 品質や環境対応に優れてはいても「おもしろくないクルマ」一辺倒からの脱却は、トヨタにとって、今後の収益基盤を下支えすべき種でもあるわけだ。

 創業家社長の肝煎りのプロジェクトが、今後、広く一般にどんな「走りも楽しいクルマ」を提示するか、けだし見ものである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)

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