2007年9月初旬、地方銀行業界に激震が走った。郵政民営化の準備会社である日本郵政が、住宅ローン事業参入についての提携話を地銀十数行に持ちかけたのだ。ゆうちょ銀行で、来年5月から住宅ローンの代理販売業務を開始するに当たり、商品と人材を提供してほしいという申し出だ。声がかかったのは住宅ローン残高上位の地銀。横浜、千葉、福岡、静岡、常陽、京都、広島、群馬、北洋、泉州、スルガなどの各行である。
地銀業界とすれば、当然、受け入れられるものではない。地銀の業界団体である全国地方銀行協会は、郵政民営化において、政府出資が残る期間の業務範囲の拡大は民業圧迫になると、繰り返し訴えてきたからだ。日本郵政は、地銀の住宅ローン商品を販売する取り次ぎ業務を通じて審査ノウハウなどを吸収した後は、自らの資金を直接融資して金利収入を得る狙いであり、手を貸せば、将来の強力な競合を育てることになる。
だが、各行ベースでいえば、ゆうちょ銀と手を組む魅力は大きい。一部地銀は水面下で日本郵政と接触し、さまざまなかたちでの連携を模索している。それだけに、強力な顧客基盤と店舗網を持つ日本郵政グループで自行の住宅ローン商品を扱ってもらえるとなれば、抜け駆けがあってもおかしくないという不安が業界に広がった。地銀協の小川是会長(横浜銀行頭取)は9月12日、「横浜銀として受けるつもりはない」と自行の対応を表明し、牽制した。
しかし、業界の不安は現実のものとなった。
提携に対する回答は9月18日に締め切られ、前述した地銀のうち10行は誘いに応じなかった。ところが、スルガ銀行は態度を明らかにしないまま。交渉が継続される見通しだ。