欧州債務危機ではじまった
「緊縮病」の猛威

米国では議会を制する共和党の意向で均衡財政主義が重視されてきたし、英国ではキャメロン政権が増税を断行した(なお、2016年に「EU離脱の国民投票」を仕掛けたキャメロンが敗北を喫した遠因は、こうした緊縮財政の採用にある)。ユーロ圏では、ドイツが主導するかたちで、強烈な歳出抑制が南欧諸国に課された。

国際政治経済学者のマーク・ブライスは、財政健全化などを至上命題に掲げる経済思想を緊縮病と命名し、その害悪の歴史を振り返り論じている。

この緊縮病の猛威は日本にまで及んだ。2009年に政権を奪取した民主党政権は、当初は「子ども手当」や「高校授業料無償化」などの財政支出を一時的に増やしていたが、欧州債務危機がはじまると、菅直人首相は選挙公約に反する格好で、消費増税などの緊縮財政政策へと急速に方向転換したのである。

ところが、緊縮的な財政政策をとっても、そもそもの問題である欧州債務危機はまったく収まる気配を見せなかった。繰り返しになるが、問題の本質が財政ではない以上、当然と言えば当然である。南欧諸国の国債金利が上昇した本当の理由は、各国の財政状況にはない。各国に「ユーロからの離脱を余儀なくされるのではないか」という懸念があったからだ。

ユーロ圏の財政当局はなんら解決策を示せないままに、いたずらに時間だけが過ぎていった。最終的には2012年半ば、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が「あらゆる手段をとる」と発言し、ECBが南欧諸国の国債を買い支えたことで、欧州債務危機によって跳ね上がったイタリア・スペインの国債金利もようやく落ち着きを見せたのである。