「金融政策+財政政策」が
世界的なトレンドに

実際、サマーズは「実質均衡金利(労働市場などの経済資源が十分使われるような経済の均衡状態をもたらす金利水準)が大幅なマイナスとなっているなら、金融緩和だけでは景気刺激効果は限られる以上、総需要を直接増やす財政政策などが必要になる」という具体的な政策提言をしていた。

これ以来、従来の金融緩和策に拡張的な財政政策を組み合わせる必要性が、欧米で盛んに議論されるようになったのは事実である。ポール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツといったノーベル賞経済学者も、財政政策による景気拡大を訴えていたし、英金融サービス機構(FSA)の元長官であるアデア・ターナーに至っては、中央銀行が保有する国債を永久債化(償還期限の定めがない債券に変更すること)するヘリコプターマネー政策の提言にまで踏み込んでいる。

こうした政策トレンドのなかで、2016年に日本では、消費増税を見送った安倍政権が拡張的な財政政策を打ち出し、米国では、大型減税や公共投資を掲げるトランプ大統領が誕生した。世界的な経済停滞をもたらした緊縮病を日米両国がいち早く克服し、財政政策の世界的な新潮流をつくっていく日はすぐそこまで来ているのではないだろうか?そのなかでトランポノミクスと新生アベノミクスは、大きな役割を果たしていくことになるだろう。

[通説]「欧州債務危機での教訓。放漫財政は経済崩壊への道」
【真相】否。さらば「緊縮病」。日米主導の財政政策シフト。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。