いわゆる「リベラル派」は、日米安保体制が強化されると、中国を刺激することになるという。そして、日米安保を恐れる中国が、軍事力の増強を進めてしまい、結果として軍事的衝突の可能性が高まるという「安全保障のジレンマ」に陥るという。だが、その主張が日本のマジョリティ(第115回(下)・p3)に支持される状況にはない。日本と中国の軍事衝突に対する国民の危機感は、かつてないほど高まっているからだ。

 これは、米国の圧倒的軍事力で中国を抑え込む以外に方法がないのが現実だ。ところが、バラク・オバマ政権では、米中関係を重視してか、米軍が尖閣を守ってくれるのかどうか、曖昧なままだった。一方、トランプ政権は無条件に「尖閣を守る」と明言したのだ。日本国民が今、最も懸念している問題について、トランプ大統領は、一点の曇りもなく「心配いらない」という強いメッセージを出したということになる。

 この連載では、トランプ大統領の外交政策についての言動が、確固たる戦略に基づくものか、単なる思い付きか、現時点では判断できないとしてきた(第142回・p5)。しかし、「中東への積極関与姿勢」、“1つの中国”の否定など「対中国の駆け引き」や、「尖閣防衛の明言」は、トランプ政権が決して「孤立主義」ではなく、地政学的戦略をよく理解していることを示している(第120回など)。安倍政権は、ひとまず「トランプ大統領就任最初の100日」にやるべきことをやったと評価できるだろう。

経済問題では日米の立場逆転へ
日本の製造業が米国の雇用を支える

「経済問題」については、麻生副総理・ペンス副大統領による「新たな経済対話」の開始で合意しただけで、懸案とされた「米国のTPP離脱とFTA締結の要請」「対日貿易赤字」「円安」等について、なにも具体的な合意がなかった。首脳間で突っ込んだ議論が行われなかったことには、批判があるようだ。しかし、ツイッター等で一方的に暴言・失言を繰り返して、日本側を「口撃」したトランプ大統領が、日本に多くの要求があるのに対して、日本側の希望は基本的に「現状維持」である。米国に対して、特にリクエストがあるわけではない。米国から具体的な話が出なければ、日本からわざわざなにか言う必要はないのだ。

 トランプ大統領が就任して以来、様々な企業が米国内での雇用拡大を表明している。それも、GM、フォードなど米国企業だけではない。日本からもソフトバンクの孫正義社長が、総額500億ドル(5兆7000億円)を米国内の新興企業に投資し、5万人の雇用を生み出すと表明した。また、トヨタもトランプ大統領に批判された後、米国で今後5年間に100億ドル(約1兆1600億円)を投資する方針を発表している。

 安倍首相も首脳会談で、これまでの日本の自動車メーカーによる米国での投資や雇用増への貢献の高さをアピールした。また、トランプ大統領が新幹線を高く評価しているように、今後、麻生財務相・ペンス副大統領による経済対話では、日本からの米国内のインフラ整備への投資が話し合われる予定だ。要するに、トランプ大統領の「口撃」がセンセーショナルに取り上げられる陰で実際に起こっていることは、「高い競争力を持つ日本の製造業が、米国の要望に応えて、米国内で仕事を生み出し、雇用を増やしていく」ということだ。