小泉構造改革の時代には、2006年の道路交通法改正で駐車違反の取り締まり業務の民間委託ができるようになり、警官がより大事な業務に専念できるようになった。また、2007年には刑務官の不足を補うために、企業との協力で運営する官民協同刑務所も実現した。

 これらと同じ発想で、極端に不足している労基署の監督官の業務を、民間事業者に部分的に委託することはできないのだろうか。

 もちろん公務員の業務をそのままのかたちで民間人に委託することはできず、関連する法令の整備が必要だ。駐車違反の取り締まり業務を民間事業者が実施するためには、取り締まり対象となった車両所有者を明らかにしないなどの守秘義務が課される。また、知人の違法駐車車両を恣意的に見逃すことも許されない。一方で、取り締まり中に違法車両の所有者等から妨害を受ければ公務執行妨害罪が適用される。民間人も業務執行中は、公務員と同じ権利と義務とが特別法で課されている。

 これと同様な条件整備を行い、労働基準監督官の定期監督業務の一部を、社会保険労務士などの公的資格を有する民間事業者に委託することで、それだけ本来の監督官が行う臨検の対象事業者数を大幅に増やすことができる。なお、これらは国の労働基準監督業務を民間企業に委ねる官業の民営化ではなく、その業務の包括的な民間委託であり、最終的な責任は主管官庁である厚労省にあることはいうまでもない。

民間委託反対派が主張する
開放できない3つの理由

 この労働監督業務の民間委託構想に対しては多くの反論がある。第1に、労働基準監督官は、予告なく事業所に立ち入り、書面等の確認や関係者からの聞き取りで、違反行為を確認し、場合によっては即座に行政処分を行うなど、一連の専門的・行政的な業務を行うのであって、駐車違反取り締まりのような単純業務ではないというものだ。

 たしかに民間人には、公務員と異なり事業所に立ち入る権限はなく、また問題が見つかっても責任者を尋問する権利もない。しかし、民間事業者が適切な労務管理がされていて任意調査に自発的に応じる事業所の書類審査を行うだけでも、それだけで監督官の監査対象を減らすことで業務の大幅な軽減となる。仮に任意調査を拒否する事業所には、何か拒否するだけの理由があるとみなされ、後で本来の監督官が乗り込むという役割分担ができる。