
「5・11政局」と呼んでいいだろう。6月22日の通常国会の会期末をにらんだ政局の動きはこの日に始まったとみられるからだ。その証しが5月11日の首相動静にある。この日は日曜日。共同通信の配信記事によると、首相の石破茂は朝のフジテレビ報道番組に出演、午後は首相公邸でチリの大統領、ボリッチとの首脳会談を行った。そして午後6時すぎに公邸を出て東京・赤坂の衆院議員宿舎に向かった。通常の行動パターンからいけば、用事を済ませた後は公邸に戻ったはずだ。
ところが、石破が公邸に戻ったのは翌12日朝。この空白の時間に宿舎内で大きな政治ドラマが進行していた。立憲民主党代表の野田佳彦と極秘会談を行っていたのだ。会談には自民党幹事長の森山裕も同席したとみられる。
テーマは自民党の党内議論が進まず未提出になっていた年金制度改革法案の扱い。提出期限とされた3月14日に間に合わず、野田は4月28日夜のBSフジの番組で石破に警告を発した。
「(法案提出がなければ)内閣の不信任に価する」
内閣支持率の低迷が続く中で少数与党に立脚する石破は逃げ場を失いつつあった。そこで石破は野田とのトップ会談に懸けたと言っていい。石破は翌12日の衆院予算委員会で明言した。
「今月中旬には提出したい」
その言葉通り年金法案は5月16日に閣議決定され、国会に提出された。ただし野田は法案に関して「あんこのないあんパン」と厳しく批判した。