(2008年6月、徐州)
南郊賓館の客室で対峙する祝平と李傑。
「あれから、俺はずっと考えていたんだ。考える時間はたっぷりあったからね」
祝平が李傑の目を捉える。
「なぜ君は裏切ったのか……」
「私は、昔から共産党の信奉者だ。自分の信念で行動したに過ぎない。そして歴史が証明した通り、君たちは国家の発展を阻害する反逆者だったということだ。あれ以降の中国の成長を見てみろよ。共産党の指導のもとで着実に中国は進歩しているじゃないか」
後ろめたさを押し隠して李傑が精一杯の反論を試みるが、祝平は苦笑いを返すだけだった。
「なるほど、立派な御高説だ。いかにも共産党常務委員様のお言葉だな。では、もう一つの疑問。北京行きを拒んだ彼女が、なぜあの夜現れた。しかも、我々に『逃げて』と叫んでいた。危険が迫っていることを知って、我々を助けようとしてくれたんだ。いったい誰が彼女にそんなことを教えた……。
君しかいないだろう。君は、現れるはずのない彼女をわざわざ呼び寄せたんだ。私たちと一緒に、彼女も逮捕させるつもりだったんだろう?」
「何が言いたい」
咎める李傑の声は震えていた。
「君は、彼女に惚れていた、違うかね? 父親が共産党幹部の君は、本当は民主化運動などに興味はなかった。しかし立芳に近付きたくて、自分を偽って我々の運動に参加したんだ。君は自己顕示の強い発言が多かったが、それは運動への情熱というよりも、立芳に認めてもらいたかったからだろ?」
李傑は顔を背けて聞こえていないような態でいるが、構わず祝平が続ける。
「しかし、彼女は隆嗣を愛してしまった。それが許せなかった君は、自分の保身も併せ考えて、公安へ寝返ることにしたんだ。君は、立芳を逮捕させることで隆嗣との将来を奪い、密かに復讐を遂げようとしたんだ」