「100万元ある。余計な記録が残らない現金の方が、面倒でなくていいだろうと思ってね」

 あえてそっけなく話すことが、却って李傑への圧力が増すことを自覚していた。予想通り、李傑は深く頭を下げる。

「ありがとう。これで俺も党内で存在感を出すことが出来る。出世への道が更に拓けた」

 本当は祝平の脅しに屈して支払う金だと知っている隆嗣は、うまい言い訳を考えたものだと内心で苦笑いした。そんな思惑を表情に出すことなく、隆嗣は真面目な顔で話し掛ける。

「俺も徐州での事業に本腰を入れて取り組むつもりだ。LVL工場だけではなく、これからはもっと大きなプロジェクトを、君と成し遂げていこうじゃないか」

「ああ。徐州市は、規模の割に沿岸部の都市と較べればまだまだ遅れていて、開発の余地が残されている。これから政府の資金を元手に手掛ける事業も目白押しだ。二人で組めば、かなりの仕事を掌中に収めることが出来るはずさ」

 深く頷いてから隆嗣が水を向ける。

「そのためには、君に共産党内での足元を固めてもらわなければならないな。上を目指すには、今回のように色々と資金が必要になってくるだろう」

「あ、ああ……」

 李傑の同調を確かめて更に誘う。

「前回の会議で報告した通り、LVLの日本での販路に目処はついた。みんなの努力で粗利率も上昇している。そこで、販売価格の5パーセントくらいは中間で抜いて、プール出来るようになると思う」

「5パーセント、というと……」

 李傑が誘惑に惹き込まれてきた。

「今月から始めたフル生産で月産900リューベー、単価400ドルだから売上総額は36万ドルになる。その5パーセントならば、1万8000ドルだ。日本にある私の会社が得る販売利益から、バックマージンを回すようにしよう。今回の100万元は約14万ドル相当だから、8ヶ月でカバーできるというわけさ。私は追加投資して増産すべきと考えているから、もっと早く回収できるだろう。ただし、君からすぐに回収するつもりはないよ。出世払いでいいさ。資金を蓄えて、早く出世してくれよ」

 隆嗣が語る計算式を脳裏で検算しつつ李傑が尋ねる。

「そんなことまでしてもらっていいのかい?」

「ああ。俺は、君とは一蓮托生のつもりで事業に取り組むんだ。君の出世が仕事を生み出してくれると信じている。私はビジネスマンさ」