「どういう方法でやるつもりなんだ? 手が後ろに廻るようなことは御免だよ」
李傑の不安と疑心を解かねばならない、隆嗣が丁寧に説明する。
「君へバックマージンを還流させる方法だが、黒(闇)銀行などは使いたくないな。日本での会計の問題もあるので、信用できるルートを取るべきだと思う。そこで、香港の銀行に君の口座を作ることにした……。アメリカから来ていた留学生のジェイスンを覚えているかい? 彼は今、香港フォーチュン銀行でシニアダイレクターをしている。融通が利くはずだ」
記憶を辿ってジェイスンという名を探った李傑は、隆嗣の傍らで冗談ばかり言っていた下品な白人の顔を思い出した。
「大丈夫かい? 香港も、今では中国の一部だ。政府の監査が入る可能性もあるだろう」
隆嗣が笑顔を繕って教えてやる。
「偽名で口座を開く。香港では、名前や登記を差し出してくれるルートはいっぱいある」
「しかし、それで口座は安全に保全されるのか?」
「もちろん。ジェイスンに任せておけば大丈夫さ」
納得したのか、李傑は何度も頷きながらビール瓶に手を伸ばし、笑顔で隆嗣のグラスへ注いだ。